魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
再び屋上に行ったコハクは、ドラちゃんが山のような真っ黒なドラゴンの姿に戻って恐ろしい唸り声を上げている姿を見てゼブルがここに居るのだとすぐにわかった。


「ゼブル、出て来い。お前とはちゃんと話をしとかねえとな」


「ふふ、ようやく2人きりになれましたね」


甘くて気持ち悪い言葉を吐きながら金色の花を一輪摘んで香りを楽しんでいたゼブルがゆっくり姿を現すと、コハクは腕を組んで赤い瞳を細めた。

まずは問い質さなくてはならないことがある。


「お前…なんで俺より先にチビのとこに行ったんだ?まさか…殺すつもりだったのか?」


「ふむ…それも考えましたが、あんな外見だけ良い女があなたを魅了して止まない理由を知りたかったんですよ。…子供もお生まれになったとか。あの女があなたの子を?」


「あの女呼ばわりすんな。次同じこと言ったらお前の片腕切り落としてやる」


ぎらぎら光る瞳の中に自分が映っていることで興奮しているゼブルは、緑の前髪をゆっくりかき上げて口角を上げて笑った。


「何が良かったんですか?外見で選んだとか?それとも身体の相性が…」


「…お前、俺を怒らせたいのか?やっぱお前全殺しな」


コハクが胸の中に手を突っ込むと、そこから真っ黒な剣が生えてきた。

昔からコハクが愛用していた剣で、久しぶりにそれを見ることができたゼブルはコハクに忠誠を誓うようにひざまずくと、心臓の上に手を置いて瞳を伏せる。


「俺はあなたと争う意志はありません。力のある者が魔界の王となる――あなたが存在する限り、魔界はあなたのもの。あなたが最強だから」


「…じゃあ俺を王に据えたらもう俺の前に現れねえのか?」


「あなたを王に据えたら、まずは人間界を滅茶苦茶にします。俺たちの世界に染め上げて人間を家畜にします。それに食料にもなりますしね」


…生粋の悪魔であるゼブルにはコハクが何を渋っているのか全く理解できず、今も瞳をぎらぎら光らせている姿にぞくぞくしつつうっとりとした表情でコハクを見上げた。


「俺はそんなの望んでねえ。あとチビを傷つけたらマジで許さねえからな。…1日だけ滞在を許してやるからさっさと巣に帰れ」


ゼブルの中でゆらりと殺意が揺らめいた。

それはコハクにではない。

コハクのすぐ傍に侍ってコハクを独占している女に――
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