魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
時々デスが男らしい行動を取ってくるようになった――

なんとなくそれに気付いていたラスは、よしよしと頭を撫でてくれているデスをじっと見上げて、目が合ってにこっと小さく笑われるとぽっと赤くなった。


「デスって変わったよね。なんか…男の人らしくなった」


「………俺……元々…男…」


「うん、知ってるけどなんか…前よりモテそう!ねえ、前より人と話せるようになったでしょ?どう?」


唇から下にキスしてはいけない――

コハクに重々そう言い聞かされていたデスは、コハクの真似をしてラスの瞼になんども唇を押し当ててむぎゅっと抱き寄せた。


「……魔王と…ラスが居れば………それで…いい…」


「それじゃ駄目だよ、せっかくこっちに住んでるんだから沢山の人と話して…」


デスがふっと笑う。

儚くも美しい微笑にまた見惚れてしまったラスは、面食いであることを十分自覚しつつデスにごろごろと喉を鳴らして抱き着いた。


「どんな女の人と結婚するのかな。好きな人ができたら絶対会わせてね」


「………」


――じっと見つめてきたデスの唇が近付いてきているような気がした。

それも唇目がけて近付いてきているような気がしてどきっとしていると、アーシェが寝返りを打ってはっと我に返ったラスは、慌てて立ち上がって隣室を指した。


「わ、私、アーシェの作品見てくるからっ」


「……俺も…行く…」


「う、ううんっ、デスはここに居ていいよ!じゃあ行って来るね、すぐ戻って来るからっ」


慌てふためきながら部屋を出て、コハク以外の男にどきどきしてしまった自分自身を諌めながら胸に手を押し当ててアーシェの作業部屋に入ると…


「ふむ…この彫刻は素晴らしい。モデルが残念な感じではあるが」


「!ぜ…ゼブルさん…」


コハクと一緒に居るはずのゼブルは顎に手をあてて正面から彫刻を鑑賞していた。

まだ未完成ではあるが明らかにラスに似ている彫刻から目を逸らして固まっているラスを見つめたゼブルは、昨日とは打って変わってラスににこっと笑いかける。


「あ、あの…コーは…」


「お部屋にいらっしゃいますよ。この彫刻…あなたがモデルですね?」


「そうらしいけど…でも全然こっちの方が綺麗っていうか…」


おどおどしているラスにゆっくり身体を向けたゼブルが口角を上げて笑うと、2本の鋭い牙がちらりと見えた。

邪気を完全に消したゼブルはラスの警戒心を解く。

それが作戦だと知らずに――
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