魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
最初に会った時はものすごく怖い人だと思っていたが、今は無邪気な笑みを見せている。

警戒心を解いたラスは、コハクの知り合いにちょっと人見知りしてしまったことを反省してにこっと笑いかけた。


「魔界からコーを追いかけて来たの?」


「端的に言えばそういうことですね。あの方があなたの影に憑いているという話を聞いてからずっとお会いしていませんでしたが…ああやはりお美しい方だ」


恍惚とした表情でコハクがどれだけ素晴らしい男なのかを語るゼブルの話は聞いていて面白い。

延々と語るので椅子に座って聞いていると、ゼブルが頭のてっぺんからつま先までくまなく見つめてきたことに気づいたラスの首が傾いた。


「?私に何かついてる?」


「不死になったとか。コハク様に魔法をかけられたのですね?」


「うん、私もう死なないんだって。そんな実感ないけど…」


「…死なないけれど、老いることはあるかもしれない。老いたまま不死になる……。ふふふ」


ラスの隣に座ったゼブルは、艶やかな金の髪を指に巻き付けてラスの耳元で囁く。


「老いたまま不死になる位ならば、俺は死んだ方がいい。そう思いませんか?」


「うん、全身あちこち痛くて毎日大変かもね。想像したこともないけど」


脚をぷらぷらさせながら彫刻を見上げているラスの横顔は確かに美しい。

だがゼブルにはコハクがラスを選んだ確たる理由を見つけることができないでいた。



「美しいだけで傍に置かれるのならば、あなたが老いたら…コハク様はどうなさるでしょうか」


「え?どういう…意味?」



ゼブルの瞳がコハクのように真っ赤に光り、恐怖を感じたラスが椅子を倒しながら立ち上がって後ずさりをする。


だが…もう遅かった。


両肩をものすごく強く掴まれて動けなくなったラスの大きな瞳に恐怖の色がたゆたうと、ゼブルはくつくつと笑ってラスにゆっくり顔を近付けた。



「私はかつて魔王と呼ばれた男。あなたが居なくなればコハク様はかつてのお強いお姿に戻る。不死になったお前を殺すことはできないが…醜い姿にしてやろう。どんな姿がいい?くくっ」


「や、やだ…!こ、コー…!」



叫ぼうとした時――

ラスの悲鳴ごと、ラスの姿は瞬時にその場から消えた。


ラスに会おうと部屋に向かっていたコハクの脚が止まり、唇がわななく。


「……チビ…?」


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