魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
目覚めた時、あの悪魔の姿はなかった。

むくりと起き上がったラスは、全身が映る鏡の前に立って自身の顔をよく見つめた。


…老いる魔法をかけた、と言っていた。

だが鏡に映っている自分の姿は何ら変化はなく、ほっとしたラスは、部屋のあちこちを見て回ることにした。


部屋はベッドがある部屋と、小さなキッチンがある部屋とユニットバスのみ。

冷蔵庫にはそれなりの量の食糧が詰め込んであり、ゼブルが長時間ここに自分を監禁しようとしているのだと悟った。


「コー……きっとすぐ見つけてくれるよね。だってコーは世界一強くてかっこいい魔法使いだもん」


くよくよしている自分は自分らしくない。

あの悪魔さえ姿を見せなければ何も問題はないはず。


「外に出てみようかな…。それ位いいよね」


木造の一軒家らしく、床は歩くたびにみしみしぎしぎしと音を立てる。

生粋のお嬢様育ちのラスはこんな古びた家に住んだことはなく、普通ならば怒るところだったかもしれないが、なんだか楽しくなってわざと音を鳴らしながら歩いてドアを開けて外に出た。


「ここ…どこなんだろ。お家が全然ない…」


どうやら森に囲まれているらしく、しかも鬱蒼としている。

脚を踏み入れたならば方向感覚を失って迷子になってしまいそうな森に見えたので、絶対入らずにおこうと決めて、砂利を敷いて少しだけ補正されている道を道なりに歩いて奥へと歩いて行くと、小さな湖を見つけた。


「わあ、綺麗!鳥さんが沢山居る!」


水辺には色とりどりの水鳥が集まり、すいすい泳いでいた。

そして何羽かの鳥がラスに興味を持って近寄って来ると、ラスは大急ぎで1度家に戻ってパンを1枚取り出し、また湖に戻ってパンを細かく手で千切って投げてやった。

喜んだ水鳥たちが我先にと群がり、しばらくすると全く悪意もなくにこにこしているラスに目を遣り、口を開いた。


『こんなところに女の子が居るぞ』


「え…私のこと?」


ラスが問い返すとぎょっとした水鳥たちはフリーズしてしまい、コハクから贈ってもらったリングのおかげで様々な声を聞くことができるようになっていたラスは、瞳を輝かせて話しかけた。


「私ここがどこかわからないの。水鳥さんたち、教えて下さい」


彼らは顔を見合わせて、そろそろとラスに近寄った。
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