魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
コハクの表情が限りなく険しい。

事態の緊急性を鑑みてすぐさまグラースやアーシェ、ドラちゃんが部屋に集められ、先ほどクリスタルパレス王国のリロイ宛てに放った鳥がすぐさま返事を持ち帰って来た。


『今すぐ行く』


殴り書きのように書かれている手紙。

リロイとティアラがここへ来たところで何の役にも立たないことは知っているが…どうしてだろうと考えた結果、自分が今とても心細くなっているのだ、と認識していた。


「きゃあああぁん!」


「泣くなって。ママをすぐ見つけて連れ帰ってくっからさ…」


先程からルゥは泣きっぱなしだ。

ラスが居なくなったことを肌で感じているのか――首に下げた水晶を小さな手で握りしめて、ぼろぼろと涙を零しながらラスを求めて泣いている。

いつもはデスが抱っこしたら泣き止むのに一向にその気配はなく、泣きながらしきりにテーブルの上に置いてあったラスのハンカチに手を伸ばしていた。

コハクがレースの白いハンカチを握らせてやるとラスの匂いがするらしくようやく落ち着き、嗚咽を漏らしながらじっと見上げてくる。


「…パパが絶対見つけっから。な?お前もそう思ってるだろ?」


「ぷう」


腕にしがみついて離れないルゥを抱っこしたままのコハクは、ラスが攫われてからこっち赤い瞳をぎらつかせて殺気立っている。

千里眼でラスが魔界に攫われたわけではないところまでは突き止めているのだが――どうにもそれ以上の痕跡が見つからないのだ。

…ゼブルは『蠅の王』とも言われ、しばしば人間界に洗われて気まぐれに人を救ったり殺したり――時代によって神として崇められたり悪魔として畏怖の対象になったりしてきたほどの大物。

もちろん生きてきた年月もコハクより遥かに長く、オーディンに匹敵する知識の持ち主であるからこそ、未だコハクの知らない魔法を沢山知っている。


「これじゃオーディンの時と同じだ。チビ…今頃心細い思いをしてるはず。早く見つけてやらねえと」


「とりあえず落ち着け。ラスのことだからのんびりしているだろう。お前が落ち着けば名案もきっと見つかる」


「…チビ…」


ラスが傍に居ないと気が狂ったかのようにおかしくなってしまうコハク。

本人もそれを自覚しつつ、ラスのハンカチを握りしめているルゥに頬を寄せてキスをした。


「すぐ見つけるから…」
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