魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
リロイとティアラはすぐにでもグリーンリバーを出て行こうとするコハクを取り囲んで肩を竦めて見せた。


「もう行くのか?せっかくここまで駆けてきたんだからお茶のひとつでも出してくれ」


「んな時間ねえんだよ。お前…チビが攫われたんだぞ!?なんでそんな悠長な時間取らなきゃいけねんだよ!」


ラスが傍に居ないとすぐ情緒不安定になるコハクも相変わらずで、コハクの生態をよく知っているリロイは力ずくでソファに座らせて、ティアラが廊下を歩いていた改造済みの魔物にお茶の準備を頼んでドアを閉めた。


「ラスなら心配ない。お前が不死の魔法をかけたから死ぬことはないんだし、頼りなく見えても意外としっかりしてるんだ。周りを巻き込む才能もある。ラスを助けてくれる人が必ず現れるから」


「…意外としっかりしてることくらい知ってるし。…なんなんだよお前に言われなくてもわかってるっつーの」


リロイに笑いながら肩を叩かれて、気負っていたものがすうっと消えていったコハクはテーブルに長い脚を投げ出して天井を仰いだ。

ゼブルは一体今どこに居るのだろうか。

もしラスと一緒に居て…ラスに手を出されたら……


「この子ますます魔王に似て来たわね。ラスの面影がどこにもないんだけど」


「うっせえな、俺だってチビそっくりな女の子欲しかったし」


ラスが傍に居ないと常にぶっきらぼうなコハクも相変わらずで、握ったハンカチをずっとくんくんしているルゥは以前見た時よりもかなり成長していて首も座っていたのでティアラは怖ず怖ずと手を伸ばした。


「こっちに来ない?男の腕よりこっちの方がいいと思うわ」


まだ言葉がわかるはずもないのにルゥはティアラをじっと見つめた後、ティアラに片手を伸ばして抱っこしてもらい、大きな胸をふよふよ触っていた。


「…ママが恋しいのね。大丈夫よ、パパがすぐ見つけてくれるから」


「ちっ、プレッシャーかけんなよな。とにかくお前らが茶を飲み終わったら俺はもう行くからな。デス、お前はどうする?」


それまでぴくりとも動かず膝を抱えてソファに座っていたデスに話しかけると、表情に何の感情も浮かんでいなかったデスは、低い声でぼそりと囁いた。


「……俺は…魔界に…行く…」


魔界へ行って、ゼブルを見つけ出す。
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