魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】

いつになく強い口調だった。

デスは皆が見守っている中脱ぎ捨てていた真っ黒なブーツを履き、フードを目深に被ると音もなくすうっと立ち上がった。

真一文字に結ばれた唇は確固たる決意を感じさせて、普段ぼうっとしているデスと同一人物だとはとても思えない。


「あいつは恐らく魔界でチビを見張ってる。傍には居ねえはずだ。デス…ゼブルを見つけてくれ。あいつを殺せばきっとチビは…」


「……行って…来る…」


出入口の方には行かずバルコニーに出て行ったデスを追いかけたリロイは、デスの姿が忽然と消えていたので改めて彼が死神で人ではないことを思い知った。

そして部屋へ引き返すと今度はコハクの姿がなく、ソファに座っていたティアラはリロイを見上げてなんとか小さく笑った。


「行ってしまったわ。結局私たちは何もできないまま。…悲しいわね」


「…そういえば、オーディンとローズマリーは各地を旅してるんだったよね？あの2人が一緒に行動しているのならかなり目立つはずだし、どうだろう…各国に手紙を飛ばしてみようか」


「ええ、それは良案だわ！国に戻ったらすぐ手配しましょう。私たちだって何かできるんだから」


ティアラの肩を抱いて頬にキスをしたリロイはすぐさまグリーンリバーを出てクリスタルパレスへと引き返した。


――彼らがそれぞれ行動を起こしたことを知らないラスは、小さなログハウスにひとり置き去りにされて何もすることがなく、冷蔵庫の前でしゃがんで食材を眺めていた。

日持ちするものが多く、ゼブルがここに長い間閉じ込めようとしているのがわかる。

きっとコハクがすぐ見つけてくれると確信していたが、冷蔵庫の食材は使わずに大量に備蓄してあった小麦粉をこねてパンを焼いていると、ドアをコンコンと叩く音が聞こえた。


「え…だ、誰…？」


窓辺に近寄ると先程会った豚が直立で立ち、腕に何かを抱えている。

何かと思って首を傾げた時、豚は地面に抱えていたものを転がした。


「あ…卵だ…。これ、貰っていいの？」


『友達に分けてもらったんだ。ここに長く住むつもりなら遠慮なく食べて。また色々持って来るから』


「わあ、ありがとう。ねえ、一緒にご飯食べてく？」


『え、いいの？』


「うんいいよ、一緒に外で食べよ」


ラスのペースに巻き込まれた豚は、くるんと曲がった尻尾をぴこぴこ動かして喜び、パンが焼けるのを待って一緒に湖へと行った。


「あなたたちが居てくれてよかった。独りじゃなくて…よかった」


負けない。

コハクを陥れようとする悪魔などに、負けるものか。