魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
何度も言葉に詰まりながら一通り話し終えたラスは、ほっとしたのかそのまま寝入ってしまった。

豚はラスの抱き枕になりつつ、一緒に訪問に来たウサギに声をかけた。


『さっきの話…本当ならこの子は明日の朝には…』


『うん…どうしようか…鏡を隠しちゃう?そうしよう』


ラスの姿が映るようなものは全て隠してしまえばいい。

彼らは朝になるまでラスの傍で眠り、そして朝になると――ラスの顔を覗き込んで首を傾けた。


『ちょっと変わった気がする…。大人になった感じだ。そんなに急激に歳を取ってる感じじゃないけど…』


『でも早く見つけてもらわないと1日に何歳かは歳を取るかもしれないってことだろ?やっぱり鏡は隠してしまおう』


外が何やら騒がしくなってきて、二本脚で立ち上がって窓から外を覗き込んだ豚は、友達たちが遊びに来てくれているのを見つけてラスの頬を鼻で押した。


『お嬢さん、朝だよ。ドアを開けておくれ。みんなと遊ぼう』


「ん……。もう朝…?お友達…?」


むくりと起き上がったラス。

彼らはラスを見上げながら、あどけなかったはずの可愛い女の子が少し大人びて美しさが増した姿に見惚れた。

不死になったとは聞いていたが、その魔法を打ち破る術を見つけることができなかったゼブルはラスの姿だけ老いるような魔法を使って苦しめている。

1ケ月…2か月もすれば、よぼよぼになって…足腰も立たなくなって…寝たきりになってしまうかもしれない。


早く見つけてもらわないと…。

早くこの女の子の愛しい人に見つけてもらわないと。


「わあ、動物が沢山居る!外に行こ!」


ラスが外へ飛び出して行き、その隙に豚とウサギは2匹で鏡を外に持ち出して山の中へと捨てに行った。

ぼんやりしている子だから鏡が無くなったことには気付かないだろうし、無くなったことに気づかないよう自分たちが常に周りに居ればいい。


『でもあの子の傍に居たら僕たちの命が…』


『危なくなるかもしれないけど僕は放っておけない。みんなで何か方法を考えよう』


ログハウスに戻ると、ラスはホルスタイン柄の牛から乳を分けてもらっておいしそうに飲んでいた。


…今のうちはいい。

楽しいことが沢山あって、現実を忘れることができるから。

現実は…これから苛酷なものとなるだろう。

出会ったばかりの女の子だけれど、何故か守ってやらなければと想わせる不思議な何かを持っていた。
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