魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
ゼブルは郊外に大きな居を構えている。

城と表現すべき大きさだが、実際魔界で1番大きな建造物はこのゼブルの屋敷で、現在1番大きな街には下級悪魔が多く集められて何かが建てられようとしていた。

デスはゼブルの屋敷に行く前にこの街へ寄り、丘の上に大きな石を敷き詰めて基礎を作っている悪魔を1匹捕まえると、押し殺した声で理由を問うた。


「……何を…作っている……」


「で、で、デス様!こ、これは……」


「……早く……話せ…」


「こ、これは魔王様をお迎えする城を建てろとゼブルさまに命令されて…」


瞬間デスの黒瞳が赤銅色に光り、下級悪魔は魂が抜け落ちたようにその場に転がって動かなくなった。

一生懸命石を運んでいた下級悪魔たちの脚が止まり、デスに注目が集まる。

恐怖に苛まれた彼らは恐慌状態に陥り、大勢がその場から逃げ出して建物の上や中に避難してデスの様子を窺っていた。


「……城……?…魔王を……ここに…?」


――ゼブルは本気らしい。

ラスを利用してぼろ布のようにしてコハクを苦しめて…彼が素直に迎え入れられると本気で思っているのだろうか?


ラスを失ったらコハクがどうなるか――ゼブルは何もわかっていない。


「………ラス…」


デスの手の中に本人は無意識ながらも真っ白な死神の鎌が出現した。

どんな命でも刈り取ってしまう死神にしか使えない鎌は、今まで殺意を持って使用したことがない。


自分は常に創造神に試されている――

今も楽園から見つめられているかもしれないが、この手は…この骨だけの指を好きだと言ってくれたラスや、この暗い世界から連れ出してくれたコハクが再び離れ離れになったりまた会えなくなったりするのは…想像できない。


「……殺して…やる……」


膨れ上がる殺意。

デスの身体から黒いオーラが噴き出して揺らめく。

口笛を吹くとすぐ愛馬が駆けつけて、ひらりと騎乗したデスは郊外にあるゼブルの屋敷へと向かった。

どこの街にも居ないということは、そこでのんびりしながらラスを監視しているはずだ。


…ゼブルはどうして想像できなかったのだろうか。


殺される、運命を。
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