魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
「くそ…っ、なんてしつこい…!」


ラスを乱暴に担いだまま空間をワープして逃げ回ったゼブルは、正直もうここまでかと覚悟を決めつつ、誰にも知られていない地下にある秘密の家にラスを連れ込んだ。

苦しそうな息を上げているラスが苦しむ様はデスに追いかけ回されたので全くといっていいほど楽しむことができず、コハクとデスを痛めつけるのに最適な方法を見出したゼブルは、煉瓦を敷き詰めた暗い道を歩いてベッドルームにしている部屋へと入る。


「さあ、これで終わりだ。…愛する女が他の男に抱かれたら…コハク様ならどうするだろうか?」


「…!…!!」


ベッドに下ろしたラスの小さな瞳が限界まで見開かれて悲鳴を上げようとしていたのがわかったが――声は出ない。

既に老衰の域の年齢になっているので、食指が動くわけがない。

ゼブルは冷笑を浮かべて壁際まで後ずさりしたラスの額を掴んで逃げないようにすると、切れ長の緑の瞳が鮮やかな光を帯びて放たれた。


思わず両手で顔を覆って直視を避けたラスは、しわしわでくちゃくちゃだった手が…瑞々しくて張りのある指に戻ってぽかんとした表情で両手を見つめる。


「コハク様はお前と再会できて喜んだだろうが…同時に絶望もしたはず。何せこの魔法は禁術でコハク様も知らないであろう魔法だからな」


「や…やめて…!もうこれ以上意地悪しないで…!」


「お前をいたぶって傷つけて、殺してやる!せめてその前に1度美しい姿に戻って悔やむがいい。俺が今から何をするかわかるか?お前を抱いて滅茶苦茶にしてやる!」


――ワンピースに手をかけられると、布地が爆発するかのように弾け飛んだ。

コハクが愛して止まないラスの全てはゼブルの目に晒されることとなり、この時ばかりはゼブルの唇から感嘆の息が漏れる。


「ほう…これは美しいな。そうか、お前はこの身体でコハク様を虜にしたんだな?そうか、これで合点がいったぞ。あの方は美しくてスレンダーで胸の大きな美女が昔からお好みだった。さぞ技術もあることだろう…お前を散々辱めて絶望させてやる!」


「やめて、やめてぇ――っ!」


馬乗りになってきたゼブルの細く見えた腕で両手を封じ込められたラスは、若さを取り戻したことを喜ぶよりも――コハク以外の男に抱かれてしまうという恐怖におびえて叫んだ。


心の底から、怖い、と思った。
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