魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
落ち葉や花弁の掃除が終わると、コハクは改造済みの魔物たちに周囲を固めさせて見えないようにして影から女神の彫像を取り出した。

少しずつ慎重に影の中から現れる女神の彫像をわくわくしながら見ていたラスだったが…

アーシェは魔法の奇跡に相変わらず慣れていない様子で、腕組みをして目を丸くしていた。


「わくわくするね!青空の下だときっともっと綺麗だろうし、みんなに綺麗って言ってもらえるよ」


「盗難防止のために動かすことができねえように魔法かけとくかー」


実はこの女神の彫像をかなり気に入っていたコハクは様々な魔法をかけて浮遊の魔法で噴水の前に設置すると、手を伸ばして女神の頬に触れる。


「この街の守り神になってくれ。ま、俺が居るけどチビをあちこち連れて行ってやりてえし、留守にする時は頼む」


もちろん返事はないのだが、コハクのように女神の彫像に話しかけたいラスがしきりにシャツの袖を引っ張っていたので、場所を譲ったコハクは隣に移動して肩を抱いた。

ラスはじっと女神の彫像を見上げて、俯き加減で伏し目がちに微笑を浮かべる女神に笑いかけた。


「アーシェに綺麗に作ってもらえて良かったね。私も傍に居て見守りたかったけど…ごめんなさい。でも心配してなかったよ。アーシェなら絶対綺麗で可愛く作ってくれるって信じてたから」


アーシェはそれを聞いて頬を赤らめると、皆の視線を感じて咳払いをして誤魔化した。

ラスはコハクを見上げてにこっと笑い、再び女神の彫像に視線を戻す。


「抱っこしてる卵は赤ちゃんでもあるし、この世界の惑星でもあると思うの。割れないようにあなたが守ってあげてね」


手を伸ばして卵を撫でた時――


「…あれ…?い、今……笑った……?」


女神の口角が少し上がって笑った気がした。

食い入るようにじっと見つめていると、伏し目がちだった長い睫毛が震えて――瞳が見えた。


「こ、コー!アーシェ!今…今笑った!目が!」


「またまたー。気のせいだろ。ほらチビ、俺たちがずっとここに居るとみんなが見れねえから退散しようぜ。おいお前ら、帰るぞー」


コハクの号令で動物たちや改造済みの魔物たちが城へと引き返す。

ラスは後ろ髪を引かれつつも、何度も女神の彫像に手を振って別れを惜しんだ。


そしてすぐさまグリーンリバーの女神の彫像は人々の話題に上がり、一躍観光スポットとなった。
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