魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
実質街を動かしているコハクは日がな1日中ラスの傍に居れるというわけではない。

新たな建造物や住民たちからの声、観光客たちが楽しめる観光スポットの増設など日々様々な問題に取り組んでいる。

妊娠すると眠たくなってしまうラスは、ルゥを抱っこしてベッドで昼寝をしていた。

デスはすぐ傍に椅子を引き寄せて膝を抱えて座り、老いてぼろぼろになっていたというラスを想像してみたが――あどけない寝顔を見せる可愛らしいラスからは老いなど全く感じることができない。


コハクは愛する女と永遠に生きてゆくために、ラスに不死の魔法をかけた。


ゼブルはそれを悪用して、未知の魔法を使って肉体のみ老いる魔法を使ってラスのみならず――皆を苦しめたのだ。

…コハクは無尽蔵の魔力を保持した最強の魔法使い。

それを疑ったことはないが、彼の知らない魔法がまだまだ沢山あることは事実。


「………捜す…」


そう呟いたきり黙り込んだデスは、腰を上げてラスに上体を傾けると、ぷにぷにの頬にキスをした。

本当はぷるぷるの唇にしてみたかったのだが――魔王が烈火の如く怒るのは目に見えていたし、してはいけないことだという自覚はあったので、また膝を抱えて椅子に座ると上下に身体を揺する。


「……んぅ………す…」


「……?」


「デス……」


――夢の中で自分が登場しているのだろうか?

微かに笑っているラスがとても輝いて見えて、また腰を上げてラスの唇に顔を近付けたデスは、わずか数センチの距離を縮めようかどうか悩んだ末――そっと唇に唇を押し付けた。


瞬間、身体中に広がるあたたかいものに満たされて、無意識のうちに舌を差し込んでしまう。

ラスの舌は甘くて、また身体がおかしなことになっていることに気付きつつも舌を絡めて貪った。


「……ん……ん…」


頻繁に声が漏れてはっとなって身体を起こしたデスは、膝を折ってラスの手をきゅっと握ると、祈るように自身の額にあてて呟く。


「……守らなきゃ…」


瞳を閉じてそう呟いたデスの手は――


骨の指ではなく肉のついた指で、髪と瞳の色は白銀に変化していた。


それは一瞬の出来事だったのでデスが目を開けた時には元に戻っていたが、コハクにしてはいけないと重々言われたことをしてしまってまた椅子に座るとぼそり。


「……魔王に…内緒…」


デスは、成長しつつある。
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