魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
太陽がゆっくりと地平線に沈んでゆく――

空のグラデーションが明るい色から濃い色へと変わり、ラスはそれを飽きもせずに甲板から眺めてうっとりしていた。

…16年もの間、城の塔のてっぺんからの景色しか、見たことがなかった。

2年前は城から出て旅をしていたが、地平線に沈む太陽は…見たことがなかった。

ぼやけながら地平線に沈むと、上空には青空が広がり、星のひとつひとつが鮮明に輝いて、またラスを感動させた。


「綺麗…」


「まだ甲板に居たのか。海の上は陸より冷えるし、ここはまだ寒冷地帯だから中に入れよ」


「うん、わかった。私お腹ぺこぺこ」


「ディナーの用意もできてるぜ。ほら、だ、抱っこしてやっから」


肝心なところでどうしても噛んでしまうコハクは、まだ恋を覚えたての少年のままだった。

ラスもまたそんなコハクに感化されて恥ずかしくなりつつも、伸ばした手を取って抱き上げてもらい、すぐ近くにある綺麗な唇に互いに見入ってしまう。


「コー…なんか…恥ずかしいね」


「ん、俺もなんか恥ずかしい。どうする?2人だけのパーティーでもすっか。あいつら楽器も弾けるぜ」


「ほんとっ?わあ、楽しそう!後で一緒に踊ろ!」


――忙しくしていた時はラスの寝顔を見るか、時々仕事を抜け出してラスに会いに行くが、寂しそうに笑う顔が居たたまれなくて、傍に居たくて…

葛藤と戦いながらも中途半端に仕事を放り投げるような主義ではないので、完膚なきまでに完璧にこなさなければ気が済まなかった。


だから今、ラスが本当に楽しそうに笑っている姿を見ているだけでもう…泣きそうになってしまう。


「わあ、美味しそう!コー、見て!私の好きなものがいっぱい!」


小ホールには2人掛けの白いテーブルとイスが用意されてあり、テーブルの上には地上に居る時と変わらないような豪華な食事が並んでいた。

向い合せに設置されていた椅子を持ち上げたラスは、コハクが座った椅子の隣にぴったりつけて座ると、にこにこしながらコハクを見上げて頬を突いた。


「食べさせ合いっこしよ。私はねえ、最初はオマール海老がいいな。コー、食べさせて」


「はいはいお姫様。じゃあ俺は牛フィレのソテーな。あ、口移しでも可!」


いちゃいちゃ、でれでれ、どきどき。

肩を寄せ合いながらの2人だけのディナーを食べつつ、窓から見える夜空と、数人の音楽隊のクラシカルな音楽に酔いしれて、うっとり。

誰にも邪魔されない貴重な時間を過ごして、互いに見惚れ合う。
< 17 / 286 >

この作品をシェア

pagetop