魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
食事をした後は、2人でダンスを踊った。

王女だったラスは、元々ぽやんとした性格ではあるが、宮廷流儀はしっかり学んでいるので、ダンスの腕前はそこそこいい。

ただ元々が不器用なので時々コハクの脚を踏んだりしているが――


「もおっ、コー、速いよ!目が回っちゃうっ」


「じゃあムーディーな音楽に変更すっか?」


ラスの腰を抱いていたコハクがぱちんと指を鳴らすと、スピーディーだった音楽はゆったりとしたムード満点の音楽に変わり、ラスは頬を上気させながらコハクの胸にしなだれかかった。

…こんな風にゆっくりした時間を持ったのは、どの位ぶりか――

信じてはいるけれど、もしかして浮気をされているんじゃないのか――

そんな不安を抱えながら日々を過ごしていたので、コハクが“チビに初恋をした”と告白してくれた時…どんなに嬉しかったことか。


「コー、抱っこして」


「よいしょー。チビ…ちょっと痩せたな?元々痩せてんのに、なんで痩せてんだ?グリーンリバーに戻るまでに太ってもらうからな!」


「だって…心配だったんだもん。コーがもう帰って来なくなるんじゃないかって…。私…ルゥも私ももう飽きられちゃったんじゃないのかなって…。でも私死なない身体になったし…どうやって生きていけばいいのかなって…」


鼻をぐずらせたラスの不安をまだ完全には拭えていないのだと感じたコハクは、また自分自身を激しく叱責してぎゅっと瞳を閉じると、ラスの耳たぶに唇を寄せてキスをした。

強く抱きしめてやると、その倍の力で抱き着いてくる大切で可愛くて手放せない女なのに、こんな訳の分からない不安を抱きながらも笑顔を見せてくれていたことが申し訳なくて、嬉しくて――


「チビ…ごめんな、不安にさせるつもりじゃなかったんだ。言い訳になるけどほんと忙しくてさ…。俺もチビに飽きられるんじゃねえかって思うことはあったけど、街の環境がよくなれば、チビがもっと喜ぶかなって。…ごめん、不安にさせただけだったかも」


「ううん…コー…私の方こそごめんね。浮気されてなくて良かった。ルゥを連れて実家に帰らなきゃいけないのかなってずっと考えてたから…」


「ばーか、ぜってぇ帰さねえって言ったろ?」


耳元で聴こえるラスの泣き声――

愛しくてたまらなくなったコハクは、恐る恐るラスの唇にキスをすると、ラスがそれに応えた。

ついばむように何度も繰り返した後、耳元でラスが囁いた。


「コー…部屋に連れて行って…」
< 18 / 286 >

この作品をシェア

pagetop