魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
コハクそのものの男が部屋の中心で倒れていた。

駆け寄ったラスがアーシェの顔を覗き込むと…どうやら病気などではなく、ただ眠っているだけのように見えた。

しかも――爆睡だ。


「コー…アーシェ寝てるみたい」


「あーあー、なんだよこんなばっちぃ床の上で寝んなよな。ルゥ、ちょっと降りてような」


「あうー」


抱っこしていたルゥを降ろしたコハクがアーシェをひょいっと肩に担ぐと、思いきり顔をしかめた。


「軽いなこいつ。ちゃんと食ってんのかよ」


「でしょ?だから沢山ご飯作ってあげなくちゃ。でもコーは魔法使いなのに力が強くてすごいね」


「へへー、かっくいいだろ?」


「うん、かっこいいかっこいい」


まんまとラスにおだてられて鼻高々になったコハクは、作業部屋の隣室にアーシェを運び込む。

本来この部屋はアーシェ用に割り当てたものなのだが…使っている形跡は全くなく、ベッドのシーツには皺ひとつない。


何かを作り出す作業は神経と体力を非常に消耗させる。

コハクも新たな魔法を作り出したり覚えたりする時は数日部屋から出ないこともままあるので、さすがは同じ血筋というか――何故か納得できて小さく笑った。


「なんか弟ができたみてえだな。こいつ…またあの村に戻んのかな。ここに住めばいいのに」


「え?私はもう住んでもらうつもりだったんだけど。駄目なのかなあ?」


「じゃあ説得すっかー。デスもこっちに居着くつもりみてえだし、ますますキワモノが増えてくな。俺を筆頭に」


自画絶賛してアーシェをベッドに寝かせると、ラスと共に部屋を出て庭に向かった。

最近は動物たち目当てに小さな子供たちが城の回りに集まることが多く、正門の正面にある小さな広場には多くの家族連れが集まって賑わっていた。


「ルゥちゃん、一緒に遊んでもらおっか。行こ」


「あーいー」


ラスとルゥに気付いた動物たちが一斉に群がってもみくちゃになると、子供たちも声を上げて駆け寄って集団でもみくちゃになる。

コハクは噴水前のベンチに座って大きな欠伸をすると、家族ができた喜びと家族が増える喜びを噛み締めながら笑顔のラスを愛しげな眼差しで見つめていた。
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