魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
隣りの部屋からはラスの楽しげな笑い声が聞こえてくるので、つい壁に耳をあてて盗聴まがいのことをしてしまっていたコハクは、デスにじっと見つめられて壁から耳を離した。


「べ、別に気になってねえし」


「………」


デスの膝でデスの指をおしゃぶりしつつすやすや眠っているルゥ。

自分の子供のはずなのにデスに懐きすぎて嫉妬の炎が燃え上がったコハクは、ルゥが起きないようにそっと抱っこするとベビーベッドに寝かしつけて壁に寄りかかって床に座った。


「で、どうなんだ。次は女の子だろ?な?」


「…………言うと…面白く……ない…」


「はあ?まさか違うのか?男か!また男なのか!次は女の子だと思ったのに!」


産み分け法を確立したと豪語していたコハクががっくり肩を落とすと、デスは珍しくにやりと笑ってものすごく強い酒をボトルでラッパ飲み。

デスが酔っているところを見たことのないコハクもまた酔わない男なので、2人で飲みだすと止まらなくなってしまう。

今ももう空になったボトルが何本目なのか…


「でもでも!いつかは女の子ができるだろ?な!?」


「………女の子……きっと…可愛い…」


「あたりめえだろが!俺とチビの子だぞ!女の子なら絶対チビに似るはずなんだからな!」


「……女の子…大体…父親似…」


「うちは逆なの!男が父親似で、女の子は母親似!べったべたに甘やかして溺愛して嫁なんかにゃ出さねえって決めてだからな!」


男の子か女の子か言っていないのにヒートアップしてまくし立てるコハクが面白くてついからかってしまったデスは、天井を見上げてラス似の女の子を想像してみて微笑む。

それもまた、珍しいこと。


「……可愛い…」


「だろ?想像でも可愛いだろ!?言っとくけど手なんか出したらお前の長い生を終わらせてやるからな!ああチビ似の女の子……イイ!すごくイイ!“パパと結婚する”って言われたい!」


「………」


悶えるコハクの隣に移動したデスは、膝を抱えて座りつつコハクの横顔を見つめた。


暗い世界から連れ出してくれた人。

優しくて居場所を与えてくれた人。


そんな2人と一緒にこれからも生きてゆける喜びを噛み締めて、どこからともなく懐から新たなワインボトルをにゅっと出してコハクを笑わせた。

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