魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
“朝陽を見たいから”と言ったラスの願いを叶えるべく、海上はまだまだ冷えるので、ラビットファーのコートをラスに着せて甲板に上がったコハクは、ラスを後ろ抱っこしたままデッキチェアに座ってまだ仄暗い夜空を見上げた。

空気が澄んでいるので空に輝く星は降り注いできそうなほどに綺麗で、手を伸ばせば掴めそうな距離に感じる。

息を吐くとまだ白く、ラスとお揃いのラビットファーで作った小さなコートとウサギ耳のキャップを被せた姿のルゥは、コハクの熱の魔法でぬくぬくだったので、また眠ってしまっていた。


「コー、夜が明けて来たよ。綺麗……。もおコーったら、こんな綺麗な世界を壊そうとしてただなんて信じられないよ」


「過去の話じゃんかよ。こんな広い世界でずっと独りで生きて来たんだ。そりゃやさぐれるし…綺麗とか感じたこともなかった。でも今は綺麗だって思える。チビが一緒に居てくれるから」


「お父様がコーをやっつけに行かなかったらこの世界を壊してたってこと?もお、馬鹿っ。コーの馬鹿」


詰られたが笑顔のラスに癒されて、遠くに見える地平線からオレンジ色の光が滲み出てくると、2人は言葉もなく見惚れて最高の景色に酔いしれた。

周囲にはまだ島らしきものはなく、本当に2人プラスルゥだけの3人の世界。

他愛もなく小さく鼻歌を唄い始めたラスの頬に頬ずりをして同じ目線で朝日が昇り切るまで一緒に過ごす。

そうしているうちに甲板に改造済みの魔物たちがぞろぞろと姿を見せたので、体力を使うこともしたし、欠伸をしたラスを抱っこして船内に戻ると、窓から朝陽が差し込む部屋に入ってベッドにラスを下ろした。


「ちょっと寝た方がいいぞ、その後遅い飯を食おう。今からはしゃいでると疲れるって言ったろ?」


「うん…じゃあちょっと寝るね。コーも寝るでしょ?」


「ん、一緒寝る。チビ、おやすみ」


にこっと笑ったラスが瞳を閉じるとあっという間に眠りに落ちていき、コハクもそれに続いた。

…デスからは何の連絡もないので、何の異変も起きてはいないと思っていたのだが――



「ああ、ここか。なるほど…結界が張ってある。しかも気配がない…。ここには居ないのか…」



グリーンリバーの結界の外でそう呟いた男。


その時冷蔵庫を漁っていたデスがぴくりと顔を上げた直後、いつものデスとは全く違う機敏さを見せて螺旋階段を駆け上がると屋上に出た。


「………魔界の…匂い…」


意識を張り巡らして微かな異変を探ろうとしたが…すぐに気配は去り、デスの無表情が険しくなる。


――だが報告はしないでおいた。

楽しい新婚旅行を邪魔したくないから。
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