魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
コハクの来訪は女王を喜ばせたが――

いかんせん続いて入って来た面々と、コハクが腕に抱いている幼子が女王の瞳を思いきり吊り上げさせた。


「再会を喜びたいところだけれど…“それ”は何なのかしら」


「それとか言うなよな。こいつは俺とチビの愛の結晶ってわけ。可愛いだろー、ちなみにもう1人産まれるんだ。いいだろー」


色とりどりの花に囲まれた中央の玉座に座っていた女王は、プラチナ色の髪を鬱陶しそうにかき上げて敵意を満ちさせた。

しかも数年前にはとても幼かったラスが、今や女王でさえも美しいと思わせる美女に成長していて目障りで仕方がない。

外見は変わっていても中身は当時のままらしく、だがコハクの袖をしっかり握って離さないあたり、警戒は怠っていないようだった。


「…それでここには何をしに来たの。また森を焼きに来たというわけ?」


「そんなに根に持つなよな、ちゃんと直しただろ。今回はベルルに会いに来たんだ。お前に会いに来たのはついでってわけ」


「相変わらず嫌味な言い方ね。…そんなに警戒しなくてもお前をどうこうするつもりはないわ」


言葉を発さずににこっと笑ったラスは花のように可憐で美しく、女王が歯ぎしりをすると、敵意を直接浴びたルゥが小さな手で首から下げている水晶をぎゅっと握りしめた。


コハクがルゥの顔を覗き込むと――


「お、おい、ルゥ?」


「あー、うー!」


ざあっと赤の瞳がさらに鮮やかに光り、殺意が噴き出す。

こんなに小さな子が持ちうる殺気ではなく、思わず女王が玉座から腰を浮かして臨戦態勢に入ると、ラスがルゥをさっと抱っこしてぷにぷにの頬にキスをした。


「ルゥちゃん、ここにはママのお友達に会いに来たんだよ。どうして怒ってるの?くすぐってあげようか、ほらっ」


「きゃきゃっ!あーうー、まーまー」


ルゥの脇の下をくすぐると悶えまくって花畑に転がったルゥからは殺気が消えて、無邪気な赤ちゃんに戻ったが…女王は固まったままだった。


「あの子は…一体…」


「俺とチビの子だし。なんか力持っててもおかしかねえだろ。つーわけで顔見せに来ただけだから次は何十年後…何百年後かな。また会いに来てやるよ」


ルゥの秘めた力を目の当たりした女王は、もうここには二度と来ないでほしいと思いつつ動くこともできず、話すこともできずに小さな赤ちゃんを凝視していた。
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