魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
ようやくラスを見つけたのは泉からかなり離れた地点で、声をかけようとしたコハクは脚を止めてラスの後ろ姿に見入った。


…細いシルエットと、風になびいて揺れる長い金の髪。

後ろ姿だけでも見惚れてしまうほどに美しいラスにぽうっとしていると、ラスの視線の先に一頭の獣が佇んでいた。


「あれは…ユニコーンか…」


聖なる処女にしか触ることを許さない真っ白な馬の姿に額に長い角が生えている聖なる獣は、ラスをじっと見つめている。


ラスはもう母親で処女でもないので、触ろうとすれば攻撃されて大変な目に遭うかもしれない――

声をかけようとしたコハクは、ラスがゆっくりユニコーンに近付いて行ったので一歩生み出そうとすると、踏んだ草の音に反応したユニコーンがぴくりと耳を動かしてラスを通り越してこちらを見た。


「ねえ、そっちに行ってもいい?触らないから。怖いことしないから…いい?」


またユニコーンがラスに視線を戻した。

こちらが動けば逃げられてしまうだろうと思ったコハクがそのまま気配を殺して立っていると、ユニコーンが前脚を折ってその場に座り込んだ。


ラスもユニコーンを怒らせないようにゆっくり近付いて行くと、とうとう触れる距離にまで近付いて同じようにその場に座り込んで掌をユニコーンの鼻に近付ける。


「ほら、怖い匂いしないでしょ?あなたとっても綺麗。触りたいな…駄目だよね?」


「くぅん」


ラスの掌を嗅いで安全だと確認したユニコーンが小さく鳴くと、ラスの掌に鼻面を擦りつけた。

許してもらえたのだと知ったラスが長い首を撫でてやると、嬉しそうに長い尻尾を揺らしてラスを受け入れた。


「ったく…ユニコーンは処女にしか触らせねえっつーのに…。チビはほんっと不思議なんだよな」


「あ、コーだ。ねえ見て、すごく綺麗なお馬さん」


「馬じゃねえよユニコーンだし。おい、俺も危険じゃねえからな。だから逃げるなよ」


「ぶふん」


警戒して鼻を鳴らしたユニコーンが立ち上がろうとすると、ラスが鼻面を撫でて落ち着かせて言い聞かせる。


「コーは大丈夫だから。怖そうに見えるけどとっても優しい人なんだよ」


「よ、よせやい照れるだろが!」


魔王、照れまくり。
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