魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
妖精たちは人間のように食べ物を口にしないので、妖精の森ではまともな食糧にありつくことはできない。

別れの時間が近付いてくると、ラスがぐずってベルルにべったりくっついて離れなくなった。


…元々は犬猿の仲…

いや、ベルルがラスをものすごく嫌っていたはずなのだが、数年行方不明になっている間に和解してとても仲良くなったふたりは、手に手を握り合って何度も再会の約束を交わし合っていた。


「また来るから…ベルル、その時は旦那さんに会わせてね」


「ええ、あなたこそコハク様はあんなお人だけど、昔からあなたには超がつくほど優しい方なんだから。浮気なんか絶対しないだろうけど、喧嘩したらここで匿ってあげてもいいわよ」


「うん、わかった!」


「うん、わかったじゃねえだろ、喧嘩なんかそもそもしねえっつーの。ベルル、これありがとな」


早朝にベルルが集めていた花についた朝露を入れた小瓶を受け取ったコハクは、虹色に光る液体を揺らしてみせた。

ベルルはまたラスの手をぎゅっと握ると、きっと吊り上った目元を下げて足元でルゥにぺたぺた頬を触られて喜んでいる我が子を見つめる。


「きっと私たちみたいに仲良しになれるわ。ラス、身体がつらくなったらあの小瓶の中に入ってる水を飲んで。すぐに体調が良くなるはずだから」


「うん…うん、わかった。じゃあねベルル、二人目が産まれたらまたすぐ遊びに来るから。絶対だから!」


「ラス、そろそろ行こう」


リロイが出発の声をかける。

集まって来た妖精たちが色とりどりの花弁をコハクたちの頭上に散らせて送り出してくれた。

ラスはその光景を目に焼き付けんとばかりにずっときょろきょろしていて落ち着きがなく、コハクは笑いながらラスを抱っこして妖精の森を後にする。


大木の幹の間から外に出ると、まばゆいばかりの太陽の日差しに瞳を細めた一行は、別れを惜しむように何度も幹の間に目を遣る。


「さーて、戻るぞ。これでしばらくは外出禁止だからな。チビ、わかってんだろうな?」


「うん…」


元気がなくなってしまったラスを心配するようにルゥが何度もラスの脚に掴まり立ちしながらドレスの裾を引く。


「またすぐ会えるといいな…」


そしてベルルの子もまた、子供たちの旅の仲間となることは、まだ先の話。
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