魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
陣痛を迎えたグラースの部屋の片隅にはすでに人型になったドラちゃんが待機していた。


初の子供でもないので落ち着き払って腕を組んで壁にもたれ掛ってはいるが、ラスはグラースから目を離さないドラちゃんの隣に立った。


「ねえドラちゃん、どんな赤ちゃんが産まれてくるのかなあ」


「角があって尾があるかもしれない。次はベイビィちゃんとの間に子を…」


「ふざけんなこのエロドラゴンが!さっさとグラースの隣に行って手でも握ってやれ!」


「性分じゃない」


切れ味鋭い切れ長の瞳がコハクを睨みつけたが、ラスが絡むと目の色が変わってしまう魔王も負けじと殺気を放って猫の喧嘩のように顔を近付ける。


そこを、ラスが一喝。


「もお!今から赤ちゃんが産まれるっていうのに喧嘩しないで!」


「俺が仕掛けたんじゃねえし!おいグラース、大丈夫か?」


「問題ない」


返って来た声は苦痛にゆがむこともなく、いつもの冷静なグラースだった。

ベッドに横たわっていて足元には産婆が居たが、相変わらず落ち着き払っていて本当にこれから出産するのかと疑ってしまうほどだ。


ラスはドラちゃんの背中を押してグラースの元まで連れて行くと、椅子を引き寄せてそこに座らせた。


…元より夫婦関係が成立していないふたりは冷めたものだったが、ラスがにこにこしているのでドラちゃんも何も言えずに大人しく椅子に座る。


「ルゥちゃんを産んだ時はすっごく痛かったけど…痛くない?大丈夫?」


「私は体力があるから問題ない。これが出産か」


それすら楽しむようなグラースの態度にそれまではらはらしていたラスは安心したように息を漏らすと、ラスに怒られてむっつりしているコハクの腕に腕を絡めて見上げる。


「この子が産まれる時はコーも傍に居てくれるでしょ?」


「あったりまえだろ、パパだもん。チビが苦しむ姿は見てて俺も苦しいけど、でも奇跡の瞬間だもんな」


「はい力んで下さいね、頭が見えてきていますよ」


驚くほどの超安産。


驚くほどに冷静なグラースとドラちゃんのカップルの間に、赤ちゃんが産まれる。
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