魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
グラースの赤ちゃんは、あっという間に大人気となった。

やはりドラゴンとの間の子とあって成長が速く、目もすぐ開いて見えるようになると、目線はいつもルゥを追っていた。


「またルゥちゃんを目で追いかけてる。ルゥちゃんが大好きみたいだね」


「そうだな、いい従者になりそうで期待している」


「従者っていうか、この子も勇者様になれるよ?ルゥちゃんの従者とかじゃなくてお友達希望なんだけど」


「一生の友人になってくれればいいと思っている。ところでラス、相談があるんだ」


産後の経過も順調ですぐ動けるようになったグラースは、隣に移動してきたラスの耳元で最近悩みの種となっていることを打ち明けた。


「この子の父親がこの子の名付け親になるといって聞かないんだ。この子は私が育てるんだし、私が名づけてやりたい。説得してくれないか」


ラスは大きな瞳を見開いてきょとんとした。

ふたりは夫婦の関係ではないが、グラースが出産してからはドラちゃんは頻繁に顔を出しに来るし、産まれてきた子もドラちゃんを父親と認識している節があって、会いに来ると喜ぶ。

ルゥという名をつけた時はコハクとふたりで一生懸命考えたが、やはりこのふたり…どこか何かがずれている。


ラスはルゥがまだ名のない赤ちゃんに指をおしゃぶりされているのを頬を緩めて見つめながら、小さく息をついた。


「ドラちゃんとちゃんとお話をしないと。ドラちゃんは人間じゃないから価値観が違うかもしれないけど、ちゃんと話し合えばわかってくれると思うよ?」


「私は種さえもらえればよかったんだ。あれと夫婦になるつもりも毛頭ないんだが」


「種?」


またきょとんとしたラスが首をかしげた時、コハクがドラちゃんの首根っこを掴まえて部屋に乱入してきた。


「おらちゃんと抱っこしてやれよな。まだ小せえからって侮るなよ、沢山抱っこしてやんねえと愛情に飢えたぎらついた奴になっちまうぞ」


「コー、偉いっ。ドラちゃん抱っこしてあげて。あとグラースと名前を考えてあげてね。名前がないのは可哀そうだよ」


「…ベイビィちゃんがそう言うなら」


「チビをエロい目で見んな!」


コハクにがみがみ叱られながらもドラちゃんが赤ちゃんを抱っこする。

意外とその手つきは慣れていて、優しかった。
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