魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
2人目の赤ちゃんのために、ロッキンチェアに揺られながらまだまだ苦手な編み物をしていた。


穏やかな時を過ごせるのは、コハクのおかげ。

時々うざいと思うほどに干渉してくることもあるが、それも自分のことを愛してくれているからだ。

コハクは両親が居なかったために、愛情に飢えているところがある。

それを癒してあげるのは自分の役目。


「…?ん……なんか…お腹が……」


ずきん、と腹が痛んだ。

手を止めたラスが大きな腹を見下ろしていると、今度は激痛が襲ってきて顔をしかめた。


「痛い…お腹が……!」


「あう…っ?まー、まー?ぴぎゃーっ!」


ラスの泣きそうな顔を足元でじっと見ていたルゥが、特別大きな声で泣き始めた。

手にしっかり水晶を握り締めてわんわん泣くので、ラスは痛みをこらえながらルゥに手を伸ばしてなんとか笑いかけた。


「ルゥちゃん、どうしたの?ママは、大丈夫だから…っ」


「わああん、まー、まー!」


顔を真っ赤にして泣いているルゥの声。

少しだけラスの傍から離れて街の整備について改造済みの魔物たちと話をしていたコハクは、身体の内からざわめくものに反応して顔を上げた。


「ルゥ…?チビが…!」


ラスに陣痛が訪れていた。

コハクの代わりにラスの傍に居たデスは、ソファからさっと立ち上がるとラスの足元で膝をついて、骨だけの指でそっとラスの腹に触れた。


「……大丈夫……落ち着いて…息…して……」


「う、ん…。デス…コーは…コーはどこに…?」


「……すぐ…来る…」


泣き止まないルゥがデスの膝に上がって細い身体にしがみつく。

母親が苦しんでいる姿に反応して泣き続けるルゥをひょいっと抱き上げたのは、全力で走って戻って来たコハクだった。


「チビ…陣痛が、始まったのか!?」


「うん、多分……。コー、どうしよう…」


「ゆっくり立ち上がって、ベッドに横になるんだ。ほらチビ」


動揺しながらも、ラスをゆっくり立ち上がらせてベッドに導いた。

改造済みの魔物たちが出産の準備を慌ただしく始める中、脈打つ腹を両手で包み込んだラスは、腹に優しく話しかけた。


「ちゃんと産んであげるからね」


私たちの、家族を。
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