魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
ラスは小さな頃からあまり“痛い”と言わない。


多忙な両親を煩わせたくなかったのか、元からの性格なのか――

どちらにしろ、ラスが“痛い”と訴えかけてくることは、コハクにとって身を切られるように痛くてつらいことだった。


「チビ頑張れ、チビにしかできないことだから…」


「う、ん…っ。コー、待ってて…」


泣き止まないルゥ。

コハクがどれだけあやしても泣き止む気配はなく、ラスが心配して集中できなくなるのを案じたコハクが止む無くルゥを魔法で眠らせた。


額に汗を浮かべながら痛みに耐えて、短い呼吸を繰り返すラス。

コハクの緊張もピークに達して数時間が経った時、産婆が明るい声でラスを励ました。


「頭が見えてきましたよ!あともう一息ですからね!」


「う、んーーーっ」


精一杯の力を込めて顔を真っ赤にして力むラスのために、手首を握らせた。

爪が食い込んで上半身が持ちあがるほど力むと――


「んぎゃあ、んぎゃあーーーっ」


「ああ…産まれた…」


元気に産声を上げる赤ちゃん。

十月十日、お腹の中で守って慈しんだ者の誕生にコハクの顔も輝いて、ラスの額にキスをした。


「チビ、産まれた!俺とチビの…」


「元気な男の子ですよ」


へその緒を切った産婆がラスの腕に赤ちゃんを抱かせると、ラスはひとつ大きく息をついて悪戯っ子のような笑みを浮かべた。


「コー、男の子だって。女の子じゃなくて残念だったね」


「残念じゃねえよ、こいつも勇者になる素質が…………チビ…こいつ…手に……」


「え?」


硬く握られた小さな小さな右手の隙間から、透明で燦然と輝く水晶がちらりと見えた。


コハクの遺伝子を受け継ぎ、コハクから水晶を受け継いだ赤ちゃん。

ルゥも水晶を手に握って産まれてきたので、まさかとは思っていたが…


「この子もコーそっくりになりそう」


「そだな、とりあえず元気に育ってくれればいいや」


元気な産声はフロア中に響いていた。
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