魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
ふたりで産湯で身体を洗ってやって、真新しい産着を着せた。

壊れてしまいそうなほどにやわらかくて可愛い男の子の赤ちゃんは、透き通るような真っ白な肌をしていてラスたちを和ませた。


「色白だよね、コーに似たのかな」


「や、チビに似たんだろ。しっかしまあ…こいつも水晶握ってんのか。俺の胎内から持ち逃げしやがって」


「魔法を使える勇者様ってすごいよね。剣も魔法を使えたら最強だよね」


出産で体力を使い切ったラスがベッドに身体を横たえて笑うと、コハクは魔法で眠らせていたルゥを起こしてラスの隣でむにゃむにゃ口を動かしている赤ちゃんと対面させた。


「ルゥ、お前の弟だぞ。お前が守ってやるんだ。何せお兄ちゃんだからな」


「あーうー!」


ルゥが人差し指で赤ちゃんの頬を突くと、赤ちゃんはお乳と勘違いしたのかルゥの指をくわえておしゃぶりをはじめてしまった。


「ふふっ、可愛い。お乳をあげなきゃ。ルゥちゃんはもう卒業したからいいよね?お兄ちゃんになったんだから」


「お、俺も欲しいなー」


さりげなくリクエストしてみた色ぼけ魔王だったが、ラスに完全にスルーされてしょんぼり。


ラスがお乳を与えると勢いよく呑み始めた赤ちゃんは羨ましく思いながら見ていたコハクとルゥだったが、それまで膝を抱えてソファに座って微動だにしなかったデスがのそりと腰を上げてベッドに近付く。


…命を奪う役割の者として、命の誕生に立ち会うことは感慨深くて、何だか胸が温かくなる。


無表情に見えるがその中から何かしらの感情を読み取ったラスは、デスを手招きして骨だけの手を握った。


「デス、抱っこしてあげて。ほらルゥちゃんは後でしてもらおうね」


デス大好きのルゥがデスににじり寄って抱っこしてもらおうと手を伸ばすのを止めたラスがそうお願いすると、デスはぐにゃぐにゃの生まれたての赤ちゃんをそっと抱っこして顔を覗き込む。


「………可愛い…」


「でしょ?みんなで大きく育てようね。デスも一緒に」


「…………俺も…?


「ルゥちゃんの時もそうしてくれたでしょ?デスもパパのひとりなんだから」


――死神がふわりと微笑んだ。

自然に沸いた笑みは驚くほどに綺麗で、美しかった。
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