魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
1ケ月を過ぎた頃、固く握りしめられていたふたり目の赤ちゃんの右手からころんと水晶が転がった。


それはルゥと同じく純粋な結晶で、間違いなく強力な魔力を湛えたものだ。

ひとつ扱い方を間違えば大惨事となる代物だが、コハクとラスはアーシェに細工をしてもらって、プラチナのチェーンに水晶を下げて首にかけてやった。


「まーた俺の中から盗みやがって。大切にするんだぞ」


「あう。きゃぷぅ」


ルゥはますますお兄ちゃんっぷりに磨きがかかり、成長の速いグラースの子はすでに首がすわってひとりでちょこんと座っている。


子供たちが、どんどん大きくなる――

よもや親になれるとは思っていなかったコハクは、愛情をたっぷりこめて子育てをしているラスに言葉に言い表せられないほどの感謝をしつつ、おしめを替えてやっているラスの頭のてっぺんにキスをした。


「?コー、どうしたの?」


「や、幸せだなーって思ってさ。そいつが大きくなったらちょっと長めの旅にでも出るか。チビはどう思う?」


「賛成!野営もするんでしょ?ドラちゃんや豚さんたちも連れて行っていい?」


「情操教育大切!俺も賛成!楽しみだなー、こいつらどんな風になるのかなー」


毎日清潔に保たれているふかふかの絨毯の上で転げまわっている3人の赤ちゃんたちは、常に一塊になって寄り添い合っている。


後はここにリロイとティアラの赤ちゃん、そして自分たちの女の子が加われば……


「ふふふふふふふふ」


「コー、顔が気持ち悪い。なんで笑ってるの?」


「面白いことになりそうだなーって思ってさ。こいつら大きくなったらなんかとんでもないことをしそうだよな」


「うん、勇者様になって女の子たちの憧れの的になるんだよ。コーみたいに」


「チビの誉め上手!よーし、今日はドラの背中に乗せて空の世界を見せてやるぞー!さ、こーい!」


ラスが二人目の赤ちゃんを抱っこして、コハクがグラースの子とルゥを抱っこして屋上に向かう。


空は雲ひとつない快晴で、最近もっぱら子供の遊び相手となっているドラちゃんが日向ぼっこをしていた。


「よーし、行くぞー!」


ドラちゃんが大きな翼をはためかせると強風が巻き起こったラスのドレスがめくれ上がった。


「こら!見んな!これは俺だけしか見ちゃ駄目なの!」


鼻を膨らませたドラちゃんの頭に本気の拳骨を叩き込むコハクを見て子供たちが笑い声を上げる。


ここは地上の楽園、グリーンリバー。


そこにはいつまでも歳を取ることがなく美しい王女様のような女と、真っ黒でいてかつて世界を牛耳ろうとした魔王のような男が居るとか居ないとか。


これは永遠に続く物語。


魔王と王女の物語。


【完】


※巻末に番外編更新予定です※
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