魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
(おまけ)チビ勇者とプリンセスの物語
「パーパ?あのね、お願いがあるの」


緑の瞳をきらきらさせて膝に上り込んできた小さなお姫様のおねだりは、父親である魔王の赤い瞳を輝かせた。


「なんでも叶えてやるぞ!どうしたエンジェル?パパになんでも言ってみなさい!」


3人目にしてようやく女の子に恵まれたコハクは、6歳になってもまだ少し舌足らずな娘にめろめろだ。

だが…年々ラスそっくりになっていく成長過程で、めるめろになっているのは、コハクだけではなかった。


「エンジェル、お兄ちゃんたちがお前のお願い叶えてやるから!」


「こら!ルゥ!リィ!エンジェルのお願いは俺が叶えるの!お前たちはすっこんでろ!チビ勇者には用がねえんだよ!」


大人げなく1人目と2人目の自分そっくりな子供を叱って膨れっ面をさせたコハクは、瞬きをしていないかのようにじっと見上げてきているエンジェルを抱っこして目尻をでれっと下げた。


「で?どしたんだ?」


「あのねパーパ…お外に出たいの。駄目ぇ?」


何でも願いを叶えてやる――

そうは言ったものの、エンジェルを溺愛して猫かわいがりしてきたコハクはエンジェルをあまり外出させたことがない。

ルゥとリィは男の子だし、幼い頃から色々な場所に連れて行ってプチ冒険もさせていたが――


「だ、駄目だぞエンジェル!外には危ないことがいっぱいなんだからな!男とか、男とか、男とか!!」


「でも…パーパ…お願い叶えてくれるって言った……」


じわりと目尻に涙を溜めたエンジェルはとても可哀相で、兄たちが次々に抗議の声を上げる。


「この魔王め!嘘つき!エンジェルを泣かせるな!」


「ママに言い付けてやる!あることないことママに言うからな!」


…恐ろしい多重攻撃だ。

ルゥたちには強気に出れてもエンジェルにだけはほとほと弱いコハクが鼻を鳴らしているエンジェルをどう慰めようか口を開けたり閉じたりしていると、部屋にカートを引いたラスとデスが戻って来た。


「……黒いの……パーパが…嘘ついたの…」


「………魔王…嘘…駄目……」


じたばたもがいてコハクの腕から降りたエンジェルが真っ先にデスに駆け寄って脚に縋り付く。

隣で目を丸くしていたラスがエンジェルのようにコハクをじっと見つめた。


「コー…」


「……わかった!わかりましたよ!じゃあ旅支度開始!」


「わあい!ママとエンジェルと旅行!」


ルゥたちが大喜びしたが…コハクの名前は出て来なかった。
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