魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
一見恋の病から立ち直ったかに見えたコハクだったが――違った。

久々にラスを抱いてたかが外れてしまい、甘くて可愛い声で鳴くラスにまた底の見えない愛情を感じて、本当にもうラスなしでは生きていけないと思っていた。

不死の魔法が成功したからには、もうデスの『死神の書』にラスの名が載ることはない。

だが…絶対に痛い目には遭わせないようにしてやろう。

常に自分が傍に居て、ラスと笑い合いながら日々を過ごすのだ。


「コー…波の音が聞こえる。気持ちいい音…」


「今まで聞いたことなかったろ?チビが16年間城に閉じこめられてた分、俺が色んな音や景色を見たり聞いたりさせてやるからな」


「うん、ありがとうコー」


ラスが心臓の上に耳をあてるようにしてもたれ掛ってきたので細い身体に腕を回して抱き留めてやりながら、コハクも波の音に耳を傾けた。

実は夜になると普通ではないスピードで船は進んでいるのだが、ラスを抱いている時くらいは船を止めてゆっくりとした時間を過ごしたい。

天然の揺り籠のように時々揺れては嬉しそうにしているラスが、胸に頬を摺り寄せてきた。


「コー、心臓の音がすごいよ、大丈夫?」


「だってめっちゃどきどきしてるし。前にも言ったと思うけど、チビを抱く時は緊張すんの!手が震えるし、俺実はまだ自分の城の棺の中に居て幸せな夢を見てるんじゃねえかって思う時もある」


「一緒に旅をして棺の中から出してあげたでしょ?私もコーが消えちゃった時は夢であってほしいって思ったよ。2年間ずっとそう思ってた」


「チビ…2年間もごめんな。それに今も影に話しかける癖が治ってねえだろ?俺はここに居るぞー」


ラスの口に最高級のチョコを入れてやりながら頭を抱きしめてやると、ラスが首筋にキスをしてきたので、魔王、大コーフン。

さわさわと触れる唇の不器用な動きがまた一気にコハクのテンションを上げさせてしまい、体勢を変えて覆い被さろうと思った瞬間――ラスがむくりと起き上がった。


「ルゥがちゃんと寝てるか見て来るね。コー、ルゥと一緒に3人で寝ようよ。最近はいはいがとっても上手になったの。パパに見てもらわなきゃ」


ガウンを身に纏って部屋を出て行ってしまったラスに伸ばした手は空振り。

相変わらず調子を狂わせるラスに夢中のコハクは、ぷっと噴き出してベッドに寝転んだ。


「かーわいい奴」


心の底から、そう思う。
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