魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
旅行と聞いた途端、子供たちは急いでバッグに荷物を詰めはじめた。

コハクの魔法を使えば手荷物など必要ないのだが、魔法を使って楽することに慣れてしまえば堕落する人間になってしまう。

コハクは身を持ってそれを知っているので、アーシェの作ってくれた天使の羽がついている白いリュックにお気に入りの人形を詰め込んでいるエンジェルの傍にへばり付いて諭した。


「魔物も出るし、怖い男もうじゃうじゃいるんだぞ。いいのか?」


「うん、パーパとお兄ちゃんたちが居るから大丈夫」


ずきゅんときた男たちは、こぞってエンジェルの元に集うと頭を撫でたり肩に触ったりして口々に言った。


「お兄ちゃんたちに任せとけエンジェル!」


「パパが全力で守ってやるからな!」


…特にコハクは、弱い魔物でも最強の魔法でもって倒してしまいそうなほどに意気込んでいたので、ラスはソファでのんびり紅茶を飲みながら隣に座っているデスの骨の指を握った。


「デスも一緒に行くでしょ?」


「……俺も……一緒に…?」


「黒いのも一緒に行くよ。ね、そうでしょ?」


デスが返事するよりも先にエンジェルがデスの同行を強く願うと、そうなってしまえばコハクたちはぐうの音も出ない。

元々子供たちは何故かデス贔屓な所もあるので、ルゥたちはエンジェルを独占することができなくなった状況に唇を尖らせたが、コハクは本気で唇を思いきり尖らせていた。


「デスを連れてくの…俺は反対だな~ー!家族だけで行きたいなー!」


「パーパ、黒いのは家族でしょ?…違うのお?」


「へっ?家族?……エンジェルまさか!で…デスと……いや、なんでもねえ!危険な想像しちまった…。エンジェルは嫁には出さねえんだからな!おいデスよく聞いとけ!」


「ねえコー、グラースたちは一緒じゃなくていいの?」


ラスが話をぶった切って問うと、それはそれで無視できないコハクは、ラスの頭を撫でているデスからラスを強奪して抱っこすると、頬にちゅっとキスをした。


「この際もう一緒でもいいけど。あいつんとこも好奇心旺盛でやんちゃだもんな。一緒でいっか」


結局は大所帯の旅になりそうだったが、子供たちの旅はいつも賑やかで楽しい。

脇役に回ることにしたコハクは、ラスとのらぶらぶ道中を期待して終始にやにやしていた。

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