魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
子供たちがある程度大きくなってからは、敢えて魔物避けの魔法は使っていない。


なので、森の奥からは時々魔物の影がちらいたりして危険なのだが、ルゥとリィを甘やかすつもりのないコハクはラスとエンジェルだけに注意して途中休憩のため馬車から降りた。


そうなると、子供たちは真っ先に森の奥に向かったり木に登ったりしてしまう。

シエルといえば見晴らしの良い場所に立っている大木にさっそくよじ登って視界から消え去ってしまった。


「こらー!俺たちの目が届く範囲で遊べー!」


すっかり父親らしくなったコハクは用意してきたランチの入ったバスケットを草の上に下ろして森の奥に声をかける。

一応素直に育った子供たちは歓声を上げながら戻って来たが、シエルは木の上から降りてこない。


「シエルー、私もー」


意外としつこいのは、エンジェルだ。

届かないとわかっているのに、シエルが登っている木の下でぴょんぴょん跳ねて手を振り続けている。

こういうところもラス譲りなのか――怒りはしないがずっと手を振り続けているうちに、世話役のようになってしまったシエルがするすると降りてきてエンジェルを抱っこすると、ぴょんと跳躍して木の上に行ってしまう。


「おいこらシエル!俺のエンジェルちゃんに何するつもりだ!」


「エンジェルが登りたいっていうから」


返ってきた返答にぐうの音も出なくなったコハクが閉口していると、ラスが両手にパンを持ってもぐもぐしながらのほほんと声をかけた。


「コー、サンドウィッチが美味しいよ、一緒に食べよ。エンジェルとシエルのは残しとこうね」


「だってチビ!エンジェルを木陰に連れ込んで何かするんじゃ…!」


「お前と一緒にするな」


グラースにぴしゃりと叱られてさらに閉口したコハクは、ラスの隣にどすっと腰を下ろしてしきりに木の上を見上げる。


「そういえばコーは私を木の上に連れて行ったりしてくれなかったよね」


「俺影だったし。それにチビが怪我して傷痕でも残ったりしたら大変だろ!萎える!」


…魔王は父親になってもやはり色ぼけまっしぐらだった。
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