魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
シエルに抱っこされて木から降りてきたエンジェルが次に真っ先に向かったのは、ラスの隣に座っていたデスの元だった。


ルゥたちは食べることに夢中になっていて、可愛い妹の行動を見逃していたのだが…コハクは違う。

自分の膝よりもデスの膝を選んだエンジェルを怒りたくても今まで怒ることもできずに地団駄を踏んでいた魔王は、なるべく優しい声でエンジェルに呼びかけた。


「エンジェル、パパが抱っこしてやるぞ」


「お腹いっぱいだからこれ食べてー」


食べかけのサンドウィッチをデスの口にねじ込んでいる光景――

デジャヴに襲われたコハクは、幼い頃のラスがよくしていた行動をエンジェルがそのまま取っていたのでもう泣きわめきたくなりながらラスを膝に乗せてぎゅうっと抱きしめた。


「コー?もお…どうしちゃったの?」


「なんでもねえ。ちょっと…ちょっとだけ寂しくなっただけだし」


「またエンジェルのこと?コー…エンジェルだってルゥだってリィだってどんどん成長していくんだから頼れるパパで居てね。コー、一緒に頑張ろ?」


「チビ!!」


押し倒すほどの勢いでラスを抱き込んで甘えているコハクの姿をデスの膝に座って見ていたエンジェルは、大好きな父親が大好きな母親に甘えている姿に少しめらっときて膝から下りるとふたりの間に横入りした。


「パーパ、私もー」


「!よしきたどんと来い!」


「きゃー!」


親子くちゃくちゃになって身体をくすぐって笑わせていると、むずむずしたルゥとリィも参加して一種の格闘技のようになってしまった。


シエルとデスはそれに参加することなくサンドウィッチにぱくつきながらそれを眺めていたのだが、心なごむ風景に頬が緩む。


――相変わらずデスの心を縛っている存在は、今や3児の母だ。

だがコハクとの仲を引き裂いてどうこうという考えは一切持ち合わせていないしまた考えもつかないところが、この死神のいい所。


「黒いのも、おいでー」


今は、そう声をかけてくれる小さな女の子の成長が何よりの楽しみ。
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