魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
エンジェルの様子がおかしいことは、デスもすぐに気付いていた。

いつもは抱っこしてだの膝に上がりたいだの我が儘言いたい放題のお姫様だったが、散策に出た後から急に余所余所しくなり、近寄って来ようとしない。


――この小さなお姫様が産まれてきた時、何か天啓のようなものを受けた。

言葉こそはっきり聞こえなかったが、創造神がこの小さなお姫様と自分に関わることを何か囁いた気がした。


「………エンジェル」


「……なあに?」


外の景色を見せてやりたい――

コハクとラスの希望から、何度も小休憩を挟むことになり、小高い丘の上でひとりで花を摘んでいたエンジェルの隣に座ったデスは、ぷくっと膨れている頬を骨だけの指で突いた。


「………俺…怒らせた…?」


「私別に怒ってないもん」


…明らかに怒っている。

ラスと同様すぐに感情が顔に現れるエンジェルは、顔を上げずにずっと花を摘んでいた。


「……ラスが…心配…してる…」


「マーマが?……黒いのがいけないんでしょっ!」


デスに向けて積んでいた花をぱっと投げつけたエンジェルは、その場に寝転んで身体を丸くすると、顔を隠す。


美しい娘になる――

ラスに何もかも似ていて、だからこそ慕われていつも傍にくっついていた小さなお姫様から反抗されて少なくとも動揺を覚えたデスは、形の良い唇を少し開いてエンジェルの耳元で囁いた。


「………ごめん…」


「私がどうして怒ってるか知らないくせに。黒いのの馬鹿っ」


「……ごめん…」


この死神には様々な感情が欠如している――

コハクにそう聞いてからなおいっそうデスを連れ出して引っ張り回してきたエンジェルは、両手で顔を隠している指の隙間からデスを盗み見た。

どこか申し訳なさそうな顔をしているが、きっと理由はわかっていないのだろう。

エンジェル自身も何故自分がこうも怒っているのか理由を見いだせていなかったので、普段ラスから優しくしてあげてと言われていたこともあり、むくりと起き上がってデスの膝を叩いた。


「抱っこしてっ」


「……うん…」


骨だけの指が伸びてくると、ひょいと身体を持ち上げられて膝に乗せられた。


とりあえずは、これでいいと満足して細くてしなやかな身体に抱き着いた。
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