魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
エンジェルがデスに抱っこされて戻って来ると、ラスはほっとして同じ金の髪を撫でた。

“マーマと一緒の髪型にしたい”と言われて伸ばしている髪は今まで毛先しか切ったことがない。

エンジェルのさらさらの髪は背中半ばまで伸びて、ラスと同じ長さになっていた。


「ご機嫌は治った?」


「うん。マーマ、抱っこっ」


「エンジェルはもう大きいんだからママ抱っこできないよ」


そう言いながらもラスがデスからエンジェルを受け取って抱っこすると、和やかに見守っていた男連中が俄かに緊張して辺りを見回した。


「なんか来たな…。チビたちは馬車に乗ってろ。デス頼んだぞ」


「………うん…」


「パパ、俺たちも戦う!」


ルゥが子供用の剣を腰から抜くと、弟のリィも続いて剣を抜いて首に下げている水晶に触れた。

シエルも外に残るからと言ってラスとエンジェルだけ馬車に押し込まれると、木の幹を渡りながら猿のような魔物の集団が現れる。

ただ体毛は真っ黒で禍々しく、同じ黒だと自身を見下ろしたデスは、馬車の窓から中を覗いて心配そうにこちらを見ているエンジェルに少しだけ口角を上げて笑みを見せた。


「………守らなきゃ…」


ラスもエンジェルも、とても大切だと思う。

こんなに可愛いお姫様を産んだラスも、また慕ってくれるエンジェルも、傷ひとつつけてはいけない――


デスが右手の掌を大地に翳すと、一瞬にして真っ白な死神の鎌が現れた。

手に馴染んだ鎌は、極力見せたくない代物だが…


猿のような魔物が馬車の屋根に飛び乗り、中に乗っているエンジェルが悲鳴を上げた瞬間――デスは跳躍して屋根に飛び乗ると、鎌を一閃した。


「ぎゃああ!」


魂だけ奪われて一瞬にして即死した魔物の身体が砂のようにざらりと溶けた。

コハクと言えば子供たち3人に指示を与えながら見事な連携で魔物たちを屠っていっていたので、デスは馬車に向かってくる魔物に集中するだけで良かった。


「黒いののっ」


「……大丈夫……」


大丈夫。

君が大きくなるまで、守ってあげる。


何故かふとそう思ってしまったが、それもまた何故かわからなかったので、そのまま鎌を振るい続けてラスとエンジェルを守り続けた。
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