魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
デスが戦う姿は、ラスもあまり見たことがない。

あの骨だけの指と死神の鎌はデスにとっては見られたくない代物らしく、自分たちはともかく他人には一切見せることはなかった。


エンジェルはあの手で赤ちゃんの頃から何度も抱っこされていて馴染があるが…死神の鎌は違う。

人の命を刈る鎌――

恐ろしいが何故か神聖なものに見えたエンジェルは、窓を叩いてデスの気を引いた。


「黒いののっ」


「……まだ中に…居て…」


外にはまだ無数の魔物がたむろしていたので、ラスはしっかりエンジェルを抱きしめて窓辺から離した。

コハクやルゥたちは何ら問題ないが、エンジェルは女の子だし、怪我のひとつでもしたらデスがどんな目に遭うか――


「ま、マーマ…黒いののは大丈夫っ?」


「デスは強いから大丈夫だよ。それよりエンジェル、怪我したらパパがデスをものすごく怒ると思うからじっとしてようね」


「うん……はい…」


大人しく座り直したエンジェルと一緒に静かになるまで待っていると、馬車の扉がゆっくり開いた。

まさか魔物が…と一瞬身構えたが、顔を出したのはデスだったのでエンジェルがすぐさま抱き着いてぐりぐりと顔を押し付けた。


「大丈夫だったっ?」


「……うん…」


「怪我は?ぺろぺろしてあげる」


――小さな怪我をすると、コハクがいつもぺろぺろ舐めて治してくれる――

それがしごく当然のことだったエンジェルは、デスの右頬に小さなひっかき傷があるのを見るや否や両手で顔を挟んでぺろぺろしまくった。


「………くすぐったい……」


「これするとね、すぐ治るの。ね、マーマ」


「うんそだね。デス、エンジェルに治してもらってね」


エンジェルは――ルゥやリィと違って、水晶を手に握って生まれてこなかった。


その代わり何か特別な力を秘めているらしく、とりあえずはぺろぺろすると本当に傷が治るということは確認していた。


「ほら治ったっ」


満面の笑みで傷口の消えた頬をなでなでしたエンジェルは、どこか照れくさそうにしているデスの頬にちゅっとキスをした。


「パーパには内緒だよ」


「……うん…」


まるでエンジェルがお姉さんのようで、コハクたちが戻って来るまでラスをずっと笑わせていた。
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