魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
2人並んで歩けるかというほどの細い桟橋に降り立ったラスは、美しすぎるビーチに感激して身体を震わせると、大急ぎでサンダルを脱いだ。

コハクの制止を振り切ってそのまま砂浜を歩くと、太陽の熱で焼けた砂が足の裏から伝わってきてぴょんぴょん跳ねながらコハクを呼んだ。


「あつーい!コー、早く来てっ!海が綺麗!ビーチも綺麗!あの建物に泊まるのっ?もう行っちゃうの?行っちゃう?」


「い、行っちゃうって…!行く!一緒行こうぜ!」


何を想像しているのかにまにま笑いながら身をくねらせているコハクが気持ち悪かったが、その腕からルゥを攫ってペンションらしき建物に向かって歩き出すと、足の裏を切って怪我しないようにまたサンダルを履かせられたラスは、ペンションの四方をぐるりと囲む海の美しさに感動しきりだった。


「どうしようコー、興奮して鼻血出ちゃいそう!」


「こんなに綺麗だとは思わなかったなー。お、なんかゴムボールみたいのが出て来たぞ。あれが管理人かよ。こんなに暑いのに痩せねえとか体脂肪何パーセントだよ」


ペンションから出て来たのは浅黒い肌の小太りの男で、コハクの悪態がツボにハマったラスはきゃっきゃと声を上げながら笑った。

確かにものすごく暑いのだが、管理人らしき男は丸々と太っていて、だらだらと汗をかきながら近付いてきた。


「あなたがコハク様で?ご予約ありがとうございました、えーと…何日間貸切られますか?」


「俺の嫁さんが飽きるまでー。あっ、こらチビ、離れんなって!」


先にペンションの中へ入ってしまったラスにため息をつきながらも、コハクは管理人の前で握っていた拳を開いた。

その掌には親指大の金が幾つも乗っていて、管理人の小さな目が限界まで大きくなる。


「通貨が通じるかわかんなかったからこれでいいか?足りなければ…」


「い、いえ、これで十分でございます!私は島を離れて近くの島に居ますので、ご用件があればいつでも手紙を飛ばして下さいませ!」


ペンションの屋根には手紙を運ぶ専用の小さな白い鳥が留まり、それを確認したコハクは幾つもの金を管理人の手に押しつけてラスを捜しにペンションの中へと入った。

調度類はリゾートらしくラタンで統一されてあり、何枚もの大きな窓が開放的で、そこから見える景色は青空とビーチという最高のものだった。


「チビー?返事しろー!」


「コー、ここだよー、キッチン!お料理作りながらビーチを見れるなんて最高!」


キッチンでラスを見つけると、へにゃへにゃ嬉しそうに笑っているルゥとラスが広い部屋中を駆け回っていた。

いい思い出が作れそうだと思った。
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