魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
ようやく涼しい家に移動したコハクたちは、ラスがシャワーを浴びにバスルームへ消えて行くとリビングボードから何本かの酒を取り出して、そのうちの1本をデスに向かって放り投げた。


「……俺………寂しかった…」


「はあ?お前いっつも独りだったじゃねえかよ。なんだ、心境の変化ってやつか?まあいい傾向だとは思うけど、俺たちにべったりなだけじゃ駄目だからな。自分からもうちょっと世界を広げてみろよ」


だがデスにはその気が無い。

コハクとラスさえ居れば後はどうでもいいし、あの暗い魔界の世界から引っ張り出してくれた2人の傍に居て、そして何か力になれることがあるならば、なんでもする気でいる。


「まあ無理強いはしねえけど。あとチビに手なんか出しやがったらマジでぶっ殺すからな。覚えとけよ」


「……手…?」


まるで意味のわかっていないデスが首を傾けると、コハクは瓶のままラッパ飲みしつつダイニングに移動して、台所を物色すると簡単なおつまみをささっと作った。

今夜のメインディッシュはラスが作ってくれるはずなので、あまり食材を使わずに素晴らしい景色を立ったまま堪能しつつデスとおつまみを食べていると、ラスの素っ頓狂な声が聞こえた。


「コー、なに食べてるのっ?これから私が作るはずだったのに!」


「これから作ってくれるんだろ?これはとりあえずデスの腹の虫が聞こえなくなるようにしただけー」


実際はデスがお腹を鳴らせたことはないのだが、それを聞いたラスは、薄い水色のワンピースの裾をはためかせながらぱたぱたと小走りにダイニングに向かい、2人に笑いかけた。


「じゃあ今から作るから待っててね。酔っ払って寝ちゃ駄目なんだから」


「寝ないって。ナイフで手を切ったりすんなよ。あ、切ってもいいか、俺がぺろぺろしてやっから」


「うん、わかった」


少しずつ日が暮れて、空がオレンジ色になっていく。

ラスの手料理を待っている間、コハクはガラスでできたチェスのボードを出すと、デスにルールを教えてやりながら穏やかな時間を楽しむ。

その間に美味しそうな匂いが部屋を漂い、2人共チェスに集中できずに首を伸ばしてダイニングを覗き込んだり忙しなく、少しずつテーブルが料理で埋まっていくと、わくわくが止められなくなった。


「美味そうじゃん!おいデス、ちゃんと味わって食えよな」


「さあどうぞ。お口に合うといいんだけど」


合うに決まっている。

この料理には、愛が詰まっているから。
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