魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
ラスの料理は相変わらず焦げ目が多い。

だが彩りはとても鮮やかで、コハクとデスは競うように料理を平らげると、ラスを喜ばせた。


「デス…もう帰っちゃうの?でもコーの代わりにグリーンリバーを守ってくれてるんだから、帰らなきゃね…」


別れを惜しむラスがぎゅうっと抱き着くと、デスはラスの小さな身体に腕を回して、ハグを返した。

コハクは本当に心の狭い男なのでその光景にいらいらしていたが…これは新婚旅行だ。

怒っているばかりでは逆にラスに怒られるし、呆れられたくないので足踏みをするだけに留まると、一瞬デスが何か言いたげな顔をした。


「…?なんだよ、どうした?」


「………もう…行く…」


デスの足元にはいつの間にか真っ黒な魔法陣が浮かび上がり、デスの身体が沈んでいく。

ラスはデスが消えていくまで手を振り続けて見送り、床にぺたんと座り込む。


「行っちゃった。グリーンリバーに戻ったんだよね?」


「あいつにゃ街を守ってもらうように言ってあるからな。ま、グラースも居るけどあいつの方が意識が鋭敏だろうから」


「そっか、デスは一応神様の1人だもんね。神様……私のお願い叶えてくれたんだよ。もし神様が居なかったら私今コーと一緒に居れてないと思うの」


テーブルに長い脚を放り出してソファに座っていたコハクは、身体を起こして真っ暗になった海の方を見ているラスを背中から抱きしめて笑った。



「どっかの国じゃ“八百万(やおろず)の神”って言って、神はものすごく沢山いるって話だぜ。チビはその中でも八百万の神の頂点に立つ創世神からの使いに会ったんだ。いやあ…俺って愛されてるなー」


「うん、私コーを愛してるもん。コーが初恋の人で旦那様なの。ずっとずっと神様にお願いしてたからコーに会えたんだよ」


「…な、なんだよ…照れる!」



――照れてしまったコハクに背中から羽交い絞めされて振り向けなくなったラスは、なんとか手を伸ばしてベランダにあたる窓を開けると、波の音に耳を澄ました。

波の音を聞いているととても気分が落ち着いて、こうしてコハクと2人きりになれることがとても嬉しくて、コハクに身体を預ける。


「コー、ランタンを持って海の近くに行こうよ。ルゥも一緒に」


「よし、じゃあ行くか。チーズとワインも持ってこうぜ」


2人だけの乾杯を。
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