魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
我を忘れてしまいそうになったコハクは、パンツを履いてシャツを羽織ると、息切れを起こしているラスの身体にワンピースを掛けてやって抱っこした。


「ごめん、なんか止めらんなくなった…」


「ううん…大丈夫。コー、ここに居る間はずっとこんな風に暮らしていけるの?海を泳いで、私がご飯を作って、一緒に…」


「グリーンリバーに居たらできねえことを沢山しよう。小さい島が沢山あるから探検もしよう。チビが喜んでくれるんなら、なんでもするよ」


「コーはどうしたいの?コーは私の我が儘を沢山叶えてくれるけど、コーはしたいことないの?」


砂だらけになったラスと2人でバスルームに向かったコハクは、シャワーの温度を確かめてラスの頭からかけてやると、肩を竦めて笑った。


「俺は長いこと生きてきたからしたいことはほぼ全部してきたし。でもチビは違うだろ?したいことがあってもできなかったろ?俺はそれを全部叶えてやるんだ。それが俺のしたいこと!」


シャワーの掛け合いっこをして勢いよくバスタブに飛び込んだ2人は、吹き抜けになっている天井を見上げて星空を楽しんだ。

叶えてあげたいことが沢山ありすぎて、ラスが不死になったからにはゆっくりでもいいから全部叶えてやりたいと思っているのは本当だ。

ラスの小さな爪に桜色のマニキュアを塗ってやりながら、コハクはとても穏やかな瞳をしている自身に気付いていなかった。

ラスはつぶさにそれを全て見ていて、コハクが安らいでいる様子に安らぎを覚える。

…こんなに綺麗な男を永遠に独り占めできることを密かに喜び、マニキュアの小瓶を奪い取って真剣な顔でコハクの爪に塗り始めた。


「ちょ…チビ!俺をヘンタイにさす気か!あ、もうヘンタイだった」


「私とお揃い!後でルゥの指にも塗ってあげよっと」


不器用極まりないラスなので、もちろん爪からはみ出ることも多かったが、大きな瞳をさらに見開いて頑張っているラスにどきどきしきりのコハクは、ラスの細い首筋や肩に視線をなぞらせながら大きく深呼吸をした。


「落ち着け…落ち着け俺…」


「また呪文唱えてる。コー、次は北に行こうよ。ここにはもうちょっと居たいけど、次は寒いとこに行ってルゥと雪遊びしたいな」


「オッケー、でもその前にきっとカイんとこに子供が生まれるぜ。寄り道してこうぜ」


「私の弟か妹なんだよね。わあ楽しみっ。ルゥの遊び相手になってくれるかな」


ラスの輝く笑顔に見惚れてキスをすると、やわらかいスポンジで身体を洗ってやり、2人でまたワインを楽しんでバスルームに向かった。
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