魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
約1週間――

南の島に約1週間滞在したラスたちだったが、そろそろ出発しなければソフィーの出産に立ち会えなくなるので、西のゴールドストーン王国に向かう準備を始めた。

停泊させていた船でずっと寝泊まりしていた改造済みの魔物たちの労をねぎらい、ラスも一緒になって荷物を運びこみ、弟か妹の誕生を心から願いつつどうしても頬が緩んでしまう。


「お父様とお母様どっちにしても絶対可愛いだろうから、とっても楽しみ!」


「チビはどっちかっていうとカイ似だもんな。ま、王国を継ぐなら男の方がいいと思うけど…」


沈めていた錨を引き上げ、風が帆を膨らませて船が南の島から離れる。

心をこめて丁寧に書いた手紙をトランクにしまったラスは、久々に帰る母国に思いを馳せてベッドに倒れ込んだ。


「南の島は素敵だったね!私かなり日焼けしたと思わない?健康的に見える?」


「そんなに日焼けしたって風じゃねえけど、焼けたのは確かだな。でも元々色白だとすぐにまた白くなると思うぜ」


はいはいをしてあちこち動き回るルゥを追いかけて遊んでいるコハクは、ルゥを抱っこしてベビーベッドに戻すと、ラスの隣に滑り込んで背中から抱きしめた。

南の島に居る間――何度もラスを抱いて、想いを込めて2人目の誕生を願った。

ルゥはまだ小さいけれど、歳の近い子が生まれればきっと自分たちもルゥにとっても、もっと楽しい毎日になるに違いない。

またラスもそれを願ってくれたので、恋に溺れた2人は誰にも邪魔されずにずっと2人きりで過ごすことができた。

もちろんルゥも一緒に居たが、一切邪魔をせずにコハクたちを煩わすこともなく、本当に素晴らしい1週間になった。


「珍しい果物とかお土産に買ってみたんだけど、腐らないかな」


「俺が魔法で腐らねえようにしてやっから大丈夫。チビ、散歩しようぜ」


ラスのうなじにキスをしたコハクはそのままラスを抱っこして甲板に出ると、もう小さくなってしまった南の島に手を振るラスを見上げた。

…今でも成長して美しくなったラスの顔を見慣れないコハクは、こうして飽きもせずにラスを見ることが多く、ラスもそれに気付いていたが――コハクは2年間眠っていたので実感がまだ沸いていないのだ。

だからこそコハクの好きなようにさせてやりたいと思っているので、見て見ぬふりをしていた。


「次は北だね。何か面白いことがあるといいな」


それは予感だったのか、期待だったのか――

現実のものとなる。
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