魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】

里帰り

ルゥが生まれてからは、まだ1度も里帰りをしていない。

またカイたちも多忙を極める生活を今も送っているために、手紙のやりとりはあれど、会うことはなかなかできないでいた。

かなり歳の離れた弟か妹になるけれど、母のソフィーは美貌を謳われてやまなかった美女だ。

そして父のカイは金髪碧眼の勇者として名高く、その2人の間から生まれてくる子なのだから絶対可愛いに決まっているとすでにラスは決めつけていた。


「コー、どの位で着くの?」


「急ぎならもっと早く飛ばすこともできるけど。チビからもシルフィードにお願いしてみてくれよ」


「うん、わかった」


人でありながら唯一四精霊と契約を交わして召喚することのできるコハクは、小さな囁きを風に乗せた。

しばらくすると、ラスが被っていた麦わら帽子が突風によって吹き飛ばされ、気が付けば目の前には水色のヴェールを纏った半透明の女性が立っていた。


『私を呼んだわね?次は誰が呼ばれるか私たち賭けてたのよ。あらおチビさんこんにちは。妖精たちと話ができるようになったらしいわね』


「わあ、シルフィードさんっ。妖精さんたちはいつも私をからかうんだよ。みんなイタズラ好きで困っちゃう」


『そこの色ぼけ魔王よりはイタズラ好きじゃないわよ。あらこの子可愛いわね。ふうん…へえ…』


もったいぶった呟きを上げたシルフィードがルゥのぷにぷにの頬を突くとルゥがへらっと笑い、いつも首から下げている水晶の欠片を小さな手に握り込んだ。

シルフィードはその水晶の欠片に宿る巨大な魔力にアーモンド形の瞳を真ん丸にすると、呆れたように肩で息をついた。


『どこを取っても魔王似だわね。ざーんねん。おチビさんに似てたらとっても可愛いでしょうに』


「俺もずっとそう思ってるし!次は絶対ぜーったい女の子だし!それよかチビほら、お願いしてみろよ」


コハクに肘で突かれてシルフィードに見惚れていたラスがはっと我に返ると、ぺこりと頭を下げておじぎをした。


「あの、私たち早くゴールドストーン王国に行きたいんです。私に妹か弟が生まれるの。だから…その…なんだっけ…」


『いいわよ、風を送ってあげる。岸に近いとさすがにまずいから沖の方に進めるわね。夜は全速力にしてあげる。あと魔王…ちょっとこっちへ来て』


色良い返事を受けて嬉しくなったラスがルゥを抱っこして踊るようにくるくる回っているうちに、コハクはラスから目を離さずに甲板の隅へと連れて行かれた。


シルフィードの表情が少し険しくなった気がして、コハクの表情も少し固くなった。
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