魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
シルフィードが協力してくれたので、航海は驚くほど順調に進んだ。

ラスは飽きもせずに海中が見える部屋と甲板を行ったり来たりしているし、ルゥは相変わらずよく寝て煩わせることはない。

だが…コハクは違った。

能天気に新婚旅行を楽しめる気分ではなくなってしまい、意識を凝らして異界の風を辿る。


魔界から地上へ出て来れるほどの大物――

確かにあちこちで喧嘩を売ってきたので逆恨みしている者も多いだろうが…魔界の者は力の強い者に屈すると、服従を誓う。

力こそが全てで力のある者に憧れて、手足となろうとする。


彼らから『魔王』と呼ばれていたコハクは魔界を総べることのできるほどの力を持ちながら、その権利を放棄した。

元々、王など存在しない混沌とした世界なので、コハクを頂点に初の魔界軍が構成されるのでは、と彼らは期待していたが――『魔王』は勇者に倒されて、影となる。


憧れは、執着。

執着は時に刃となり、命を狙う。


「…ま、俺は不死だから死なねえんだけどな」


それでも場合によってはまた何年も何十年も眠らなければならなくなるかもしれない。

そうなればまた…ラスを悲しませてしまって、泣かせてしまうだろう。


「そうならないように先に見つけて殺しておかねえと…」


「コー!イルカが一緒に泳いでる!可愛い!きゅうきゅう鳴いてる!」


「チビー、落ちるなよ!ああ駄目だって!ほら危ねえから俺が抱っこしてやるし!」


放っておくと身を乗り出し過ぎて本当に海へ落ちてしまいそうになるラスを姫抱っこして一緒に海の底を覗き込む。

イルカがお腹を出してバックしたまま泳いでいたり、華麗に一回転ジャンプを決めたりしてラスに歓声を上げさせて脚をばたつかせた。


「すごいね、海って全然飽きない!ねえコー、海の見える所に別荘があるといいよね。そしたらいつでもルゥとコーと一緒に泳げるでしょ?」


「ん、じゃあ暑いとこで、海が見えるとこに家を買おう。寒いとこのは暖炉があって煙突があるログハウスな。楽しみだなー!もう1人子供が居るともっと楽しいだろうなー。女の子だったら超楽しいだろうなー!」


「またその話?じゃあ一緒に頑張ろうね」


ちゅっとキスをしてきたラスを頭上まで抱き上げてまた歓声を上げたラスの弾ける笑顔に誓った。


絶対悲しい目には二度と遭わせない、と。
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