魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
ソフィーが産湯で身体を洗ってやるとようやく泣き止み、そしてカイの腕に抱かれてもぞもぞと動いていた。

ルゥが産まれた時もこんな風に元気に産声を上げて、産湯で身体を洗ってやり、そしてコハクの腕に抱かれ、最後にお乳を飲ませてやると、母としての実感が一気に生まれた。

目が見えるようになってはいはいもできるルゥは、最初大きな産声にびっくりしていたが、すぐに手を伸ばして赤ちゃんに触れようとしてラスに抱っこされた。


「ルゥちゃん、遊び仲間が生まれたよ。お父様、この子が王国を継ぐんだよね?」


「そうだね、そうなるといいけれど…この子にはこの子の人生がある。王国を継ぐのが嫌だと言うのであれば、ルゥに継いでもらおうかな」


「冗談じゃねえよ、そんな重たい運命背負わせんな。ルゥは伸び伸び育ててやるんだ。まだ若いんだからもう1人作りゃいいじゃねえか」


あまり会えない祖父と祖母に甘えたがるルゥは、ベッドに下ろしてもらうとすぐカイに腕を伸ばして抱っこしてもらい、へにゃっと笑っていた。

…これはこれで親子のように見えてめらっとした魔王がルゥを奪い取ろうとすると、ラスが赤ちゃんを抱かせてもらって嬉しそうにしていた。


「すっごく可愛い。やっぱり瞳の色は緑なのかな。髪も金色みたいだし、将来かっこよくなりそう」


「私も君似の男の子か女の子の孫が見たいんだけどなあ。ルゥは可愛いけど、将来誰かさんみたいになりそうで少し不安だな」


「すっごくすっごくかっこよくなるに決まってるよ。だってコーにそっくりだもん。あとリロイのとこに赤ちゃんが生まれたらきっとすっごく楽しいよね」


話しているうちに赤ちゃんがラスの胸をまさぐってお乳を欲しがり、すでにやきもちを発揮したルゥが大きな声を上げて牽制した。


「きゃぷう!」


「私もまだお乳は出るけどお母様のを飲むんだよ。はいどうぞ」


ソフィーはまだコハクを完全に許し切れてはいない。

赤ちゃんをコハクに抱っこさせることを嫌がっていた風だったので、ラスはカイの腕からルゥを奪うとドアに向かって歩き出してカイに呼び止められた。


「私のプリンセス、来たばかりなのにどこに行くんだい?」


「私の部屋…じゃなくって、ベビールームに居るから。落ち着いたら会いに来てね。お父様、お母様、おめでとう」


ラスの表情が少し曇ったことにコハクもカイも気付き、カイはソフィーの肩を抱いて無言でコハクを拒絶するやんわり窘める。

だがラスは返事を待たずに部屋を出た。

ソフィーにはまだ時間が必要なのだ。

今は赤ちゃんを見れただけで十分。

ルゥを故郷に連れて来れただけで、十分。
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