魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
ラスが城を出るのを見た近衛兵は慌てて駆け寄ってラスの前に立ちはだかった。
「ラス王女、もうお帰りになるのですか?せっかく弟君がお生まれになりましたのに…」
「うん、出産にも立ち会えたし抱っこもさせてもらったから、もう用事は済んだの。ルゥちゃん、兵隊さんたちに手を振ってあげて」
「ぷきゃ」
ラスがルゥの手を取って小さく振ると、中年の近衛兵は頬を緩めたが――カイの許しもなくラスをこのまま帰らせるわけにはいかない。
彼はラスが城の中や森を駆け回っていた頃から知っていたので、こうして子供を生んで里帰りしてくれたことをとても喜んでいたが…近衛兵という最も王族の傍についている者だからこそ、ラスたちが抱えている事情を知っている。
ソフィーは…ラスの隣で黙って立っているコハク――魔王と呼ばれている男が大嫌いなのだ。
世界を暗黒に染め上げようとしてカイと戦った最強の魔法使いは、ラスの影に憑いてカイたちを長く苦しめたし、赤子のラスの影からはじめてコハクが喋った時――すでに近衛兵の身だったので、その場に立ち会ってその光景を目撃していた。
「…いけません。カイ陛下はいつもあなたのことをお話になっておられました。どうぞカイ陛下とソフィー王妃のお傍に」
「ううん、いいの。…お母様は私とコーが一緒に居るといい顔をしないから、私はそれを見たくないの。お父様とお母様によろしく伝えておいてね」
「ラス王女…!」
なんとか引き留めようとして脇をすり抜けていくラスに追い縋ろうとしたが、それをコハクが止めた。
「やめとけって。今のチビは言い出したら聞かねえんだ。またルゥを連れて会いに来る。…めでたい日なのに、ごめんな」
コハクもこの近衛兵のことをよく知っていた。
カイとソフィーが政務で多忙な時に、時々ラスの馬役を買って出たりして遊んでくれていた男だ。
俯きがちに歩いているラスの背中をどこか呆然とした表情で見つめて悲しんでいることにも気付かずに先を急ぐラスの頭上で、声が降ってきた。
「私のプリンセス、どこへ行くのかな?」
「お父様!また遊びに来るから。それまで元気でいてね」
2階のバルコニーの手すりに身を乗り出して見下ろしているカイにラスが手を振ると、カイは金色の瞳に愛しさを瞬かせて――ひらりと飛び降りた。
「きゃあっ!お父様!」
華麗に着地したカイは、駆け寄ってきたラスの肩を抱いて腰を折ると、白くてやわらかい頬にキスをした。
「話があるんだ。もう少しだけ居てもらえるかな?」
ラスは躊躇しつつも、こくんと頷いた。
「ラス王女、もうお帰りになるのですか?せっかく弟君がお生まれになりましたのに…」
「うん、出産にも立ち会えたし抱っこもさせてもらったから、もう用事は済んだの。ルゥちゃん、兵隊さんたちに手を振ってあげて」
「ぷきゃ」
ラスがルゥの手を取って小さく振ると、中年の近衛兵は頬を緩めたが――カイの許しもなくラスをこのまま帰らせるわけにはいかない。
彼はラスが城の中や森を駆け回っていた頃から知っていたので、こうして子供を生んで里帰りしてくれたことをとても喜んでいたが…近衛兵という最も王族の傍についている者だからこそ、ラスたちが抱えている事情を知っている。
ソフィーは…ラスの隣で黙って立っているコハク――魔王と呼ばれている男が大嫌いなのだ。
世界を暗黒に染め上げようとしてカイと戦った最強の魔法使いは、ラスの影に憑いてカイたちを長く苦しめたし、赤子のラスの影からはじめてコハクが喋った時――すでに近衛兵の身だったので、その場に立ち会ってその光景を目撃していた。
「…いけません。カイ陛下はいつもあなたのことをお話になっておられました。どうぞカイ陛下とソフィー王妃のお傍に」
「ううん、いいの。…お母様は私とコーが一緒に居るといい顔をしないから、私はそれを見たくないの。お父様とお母様によろしく伝えておいてね」
「ラス王女…!」
なんとか引き留めようとして脇をすり抜けていくラスに追い縋ろうとしたが、それをコハクが止めた。
「やめとけって。今のチビは言い出したら聞かねえんだ。またルゥを連れて会いに来る。…めでたい日なのに、ごめんな」
コハクもこの近衛兵のことをよく知っていた。
カイとソフィーが政務で多忙な時に、時々ラスの馬役を買って出たりして遊んでくれていた男だ。
俯きがちに歩いているラスの背中をどこか呆然とした表情で見つめて悲しんでいることにも気付かずに先を急ぐラスの頭上で、声が降ってきた。
「私のプリンセス、どこへ行くのかな?」
「お父様!また遊びに来るから。それまで元気でいてね」
2階のバルコニーの手すりに身を乗り出して見下ろしているカイにラスが手を振ると、カイは金色の瞳に愛しさを瞬かせて――ひらりと飛び降りた。
「きゃあっ!お父様!」
華麗に着地したカイは、駆け寄ってきたラスの肩を抱いて腰を折ると、白くてやわらかい頬にキスをした。
「話があるんだ。もう少しだけ居てもらえるかな?」
ラスは躊躇しつつも、こくんと頷いた。