魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
見上げなければならないほど大きな白い正方形の石の前に立ったアーシェは、数風管考えていたが、彫刻刀やノミといった道具を入れたケースを腰に斜めにかけ、大きく息をついた後、石を削る音が部屋に響いた。


アーシェの足元はみるみる白くなり、粉塵を吸い込まないようにと遠くから見守っていたラスは、ただの石が徐々に形を成して行く様に感激していた。

イメージを形にできるということがどれほどすごいことか――

コハクもいとも簡単にイメージを形にすることができるし自慢もほとんどしないので気にしたことはなかったが…


「すごい…。でも何を作ってるんだろ…」


「あう、あうっ、きゃぷ!」


「ルゥちゃん?どうしたの?」


急にルゥが声を上げてばたばたし始めたので椅子から立ち上がったラスがあやしてやりながら首を傾げると、いきなりドアが開いてコハクが顔を出した。


「あ!ここに居たのか。部屋から出るなって言ったろ?」


「でもコー1回部屋に戻って来たでしょ?またどっかに行っちゃって寂しかったんだから」


「は?」


「!そ、そこ!気が散るから喋るのなら出て行ってくれ」


「うん、じゃあまた後で見に来るかもしれないからその時は黙ってるね」


コハクは首を傾げながらもいつものように自然な動作でラスを抱っこして部屋を出た。

戻って来た途端やらなければならないことが一気に肩に圧し掛かってきていらっとはしていたが、ラスには関係ないことなのでそれを綺麗に隠すとお尻をなでなで。


「今日は疲れたろ?軽く飯食ってゆっくりして寝ようぜ。お、俺はチビを食べたいなー」


「ねえコー、アーシェは何を作ってると思う?聞いてもやっぱり教えてくれないし、ずっと見てたんだけど、あれって一発勝負なんだよね?でもすっごく早くてすごいの」


願望はさらっとスルーされてしまったが、まあそれもいつものことなのでめげないコハクは可愛いお尻をさらに撫でまくって満足。

ラスの腕の中にはルゥが瞬きを忘れたかのようにじっと見上げてきているし、家族ができた喜びは今も毎日感じて、世界が鮮やかに見えるようになった気がする。


「じゃあサンドウィッチ作ってあげる。卵のでいい?」


「ん、じゃあ俺がサラダ担当な。特製ドレッシング作ってやるよ」


こんな日々が一生続けばいいのに。

一生続くのなら、きっとどんなことでもやって見せる。
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