魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
何者かに見られている――という意識を忘れてはいけない。


恐らく狙いは自分に定められているのだから、ラスとはあまり一緒に居ない方がいいのかもしれないが――それは無理だ。

自分がラス欠乏症で死んでしまうかもしれないから。


「コー、痛いよ。ぎゅってしすぎ」


「だってぎゅってしてえんだもん。なあチビ…新婚旅行、楽しかったか?俺、すっげえ楽しかった」


暗闇の中、ガーネットの宝石のように美しく光っている赤い瞳に魅了されたラスは、コハクの瞼にキスをして固い胸に頬を寄せながら頷いた。


「うん、すっごく楽しかったよ。はじめて水着も着たし海で泳いだし。探検もしたでしょ?雪山にも行ったし、そこでアーシェにも会えたし。ふふふ」


「?なに笑ってんだよ。教えろー」


「だってアーシェって可愛いんだもん。髪を切って無口にしたコーみたいで新鮮なの。だってコーが2人居るみたいなんだよ、それってすごくお得!」


お得扱いされて噴き出したコハクは、ラスの身体をくすぐって可愛い笑い声を上げさせてじゃれ合いながらも、ラスにわからないように自分たちの身体を包み込むような極小の結界を張って気配を完全に絶った。

守るべきものができたということはコハクにとっては弱みそのものだが、これを失くすと――かつてデスが予言したような未来になってしまうだろう。


守らなくては。

守り抜いて、怪我のひとつもさせてはいけない。


「コー…なにか心配してることがあるんでしょ?私に教えて」


「へ?いや別に…心配してることなんかねえよ。なんでだよ」


「だって時々難しい顔してるし。私やルゥに関係あること?危ないこと?しばらく実家に帰ってた方がいい?」


「チビたちに関係ねえし、実家に帰られるのは絶対に駄目だ。…危ねえことかどうかはまだわからねえ。だけど…俺が守るから。だから離れていかないでくれ」


きりりとしているコハクも好きだけれど、陽気なコハクの方がもっと好きだ。

ラスは何度も髪を撫でてくれて抱きしめてくれるコハクと見つめ合ってキスをすると、コハクの頭を抱いて耳元で囁いた。


「信じてるよ。コーなら大丈夫。だって最高の魔法使いだもん」


――ラスの言葉ひとつで頑張れる。

コハクはまたラスの唇を求めて貪りながら、幸せな生活を脅かす者を必ず引きずり出して殺してしまおうと強く心に決めて瞳を閉じた。
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