臆病な恋心~オフィスで甘く守られて~
「ちょっとトイレに行ってくる」

「え、大丈夫?」

「うん」


麻由子の涙腺は、最近緩くなっていた。零れそうになる涙を堪えて、化粧室に入った。


「はあ…」


大きなため息をついて、目頭を押さえる。鏡で見る目は少し充血をしている。

とにかく気持ちを落ち着かせよう。違うことを考えよう。でも、浮かぶのは航平の顔ばかり。

優しく笑う顔、大きな口を開けて笑う顔、少し照れる顔…どんな顔を大好きな顔だ。


目元のメイクを直して、化粧室を出る。

とりあえず仕事に集中しよう。幸いなことに決算期で仕事は多い。余計なことを考える暇がないくらい働こう。

麻由子はこれからやるべき仕事を考えながら、歩いた。


「あ、藤野」


後ろから声を掛けられて、振り向いた。





< 232 / 255 >

この作品をシェア

pagetop