臆病な恋心~オフィスで甘く守られて~
斉藤さんの担当は飛行機や新幹線のチケットの手配、ホテルの手配である。


「麻由子…藤野さんがやっていますよ」


千尋はまだ固まっている麻由子を指差して、微笑む。ほら、麻由子の出番よ!…アイコンタクトを送る。

しかし、固まっている麻由子には届いていないようだ。


「ああ、藤野さんがやっているんだ。良かった、知ってる子で」


航平は固まり続けている麻由子の前にやってきた。

麻由子は航平が目の前に来て、やっと我に返って、自分の横まで来た航平を見上げる。


「チ、チケットですね。えっと、あの、この申込書に記入をお願いします」


デスク左脇に置いてあるトレイから申込書を差し出した。ごく普通の業務なのに、麻由子は緊張した。航平に向けた申込書が震える。
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