カノンとあいつ
シュール・シュール・シュール



「ママ!!」



女の子が駆け寄って来て、私の胸に顔を埋める。




何組かのカップルがテーブルの周りを踊りながら通り過ぎてゆく………。







周りを見渡すと、何千ものテーブルは遠く列を成して埋め尽くされ、目を凝らして眺めるキャンドルの灯は、まるで星空を映し込んだ大海原の鏡のように、キラキラと光り輝いている。



その一つ一つに点された凡百の色彩は、蒼い闇を遥か地平線の彼方へと纏い、幻想的な夜を一身に着飾っている。








「ママ!!
………すごい!!」




カノンの調べに誘われながら一人……

また一人………

恋人の手を取り、次々に踊り始める。




「ママ!!」





優しい抱擁に身を委ねては、お互いを見つめ合う恋人達…………。




「すごくきれい!」




何処からともなく聴こえる沢山の幸せそうな笑い声…………。


あのバーテンダーまでもが棒のように立ち尽くし、赤や青に飾られた天空の星々を、口を開けて唯じっと仰ぎ見ている。












「ほんとね………?
……………綺麗ね?
…………………
パパがくれたのよ?!」











「ねぇ、……未由のこと忘れない?」



柔らかくて湯タンポみたいに温かいこの子を……
今、ぎゅっとこの胸に抱き締める………。


「ずっとこうしたかったのよ?!」




「え?……なに?」




「ママはね…」
と、また言いかけて……
まん丸い目を欹(そばだ)てて尋ねるその愛らしい無垢な文色(あいろ)を首に抱き寄せる以外には、もう涙をこらえる事も出来ない………。











「忘れるもんですか……」






「大好きよ…………」








未由……………



…………許して!






「ごめんね未由…………」



「会えなくて…………」







「ごめんね……………」

























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