カノンとあいつ
記憶
─ ф
────────── ж
――― ф
─────────────── ж
「ねぇ、教えて欲しいんだけど………」
准が差し出したノートには無数の曲線と幾つかの小さな円が書き込まれていた。
「もし地球が自転も公転もしてなかったとしたら、太陽や他の惑星がどんな軌道を描けば辻褄が合うんだろう…って考えてたら……
なんか訳分かんなくなってさ……」
「知らないよ!
………あなた、もしかして天動説派?」
茶化すつもりで言ったのに、少しも笑おうとしない。
………変な奴。
「分からないんだ、…だって太陽は東から登って西に沈むだろ?
………これって天動説だよね」
面倒くさいなって思いながら、それでも私は、准がほっぺたに突き立てた二本の細い指も、困惑する時の真っ直ぐな眉毛も、不思議と退屈もせずにいつまでも眺めている事が出来た………。
悲しければ悲しいほど愛しく思える、鰯の大群を雲に見立てたあの真っ青な空を、その横顔に重ねて見る事が出来る位に。
「じっとしてる太陽に…西も東も無いと思わないか?いつも同じ場所に在るわけで…………
人間の都合で、あるときは東だと言い、夕方になると西だって言う……
太陽の奴、きっと言ってるぜ?『俺はずっとここだ』って………」
ジョークにしては、思い詰めてたりするからいっそ訳分かんない。
「ねぇ、いくらゼミで顔見知りだからって、これって初対面の女性に訊く事?」
「あ、それから、これなんだけど」
また無視する!
准がイヤホンを片方だけ外し、私の耳に近付けようとする。
身構える間も無く聴こえてきたのは………
紛れもなく、今、この扉から溢れ出すあのパッヘルベルだ………。
その音色に見る見る視界は開かれ、心を癒してはまた継ぎ足されてゆく心地よいリフレーンは“世界”を形作る無数の美しいもの達を讃え、祝福に満ち溢れている。
「あっ、知ってる!!
……これ何て曲?」
「それを訊こうと思って…、いろいろ編集してプレゼントしてくれたのはいいけどタイトルがなくてさぁ……
誰も知らないんだ」
「くれた人に訊いてみれば?」
「そうなんだけど、振られちゃって……」
私から受け取ったイヤホンをつまんで、ボソッと言う。
普通言うか?
「泣くのはいいけど……
ここではやめてよね」
声を潜めて、わざと神妙に言ってやる。
「いいよ、後で泣くから」
………てっ、天然か?
「な…付き合わないか?」
「え!………?」
「そうじゃなくて……」
准が、もう片方のイヤホンを外しながら………
子供みたいに、やっと笑ってくれた。
私達はその日の内にCDショップに出向き、この綺麗な曲のタイトルを知り、准はそれを私に買ってくれた。
それは准が私にくれた、初めてのプレゼントだった。
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「ねぇ、教えて欲しいんだけど………」
准が差し出したノートには無数の曲線と幾つかの小さな円が書き込まれていた。
「もし地球が自転も公転もしてなかったとしたら、太陽や他の惑星がどんな軌道を描けば辻褄が合うんだろう…って考えてたら……
なんか訳分かんなくなってさ……」
「知らないよ!
………あなた、もしかして天動説派?」
茶化すつもりで言ったのに、少しも笑おうとしない。
………変な奴。
「分からないんだ、…だって太陽は東から登って西に沈むだろ?
………これって天動説だよね」
面倒くさいなって思いながら、それでも私は、准がほっぺたに突き立てた二本の細い指も、困惑する時の真っ直ぐな眉毛も、不思議と退屈もせずにいつまでも眺めている事が出来た………。
悲しければ悲しいほど愛しく思える、鰯の大群を雲に見立てたあの真っ青な空を、その横顔に重ねて見る事が出来る位に。
「じっとしてる太陽に…西も東も無いと思わないか?いつも同じ場所に在るわけで…………
人間の都合で、あるときは東だと言い、夕方になると西だって言う……
太陽の奴、きっと言ってるぜ?『俺はずっとここだ』って………」
ジョークにしては、思い詰めてたりするからいっそ訳分かんない。
「ねぇ、いくらゼミで顔見知りだからって、これって初対面の女性に訊く事?」
「あ、それから、これなんだけど」
また無視する!
准がイヤホンを片方だけ外し、私の耳に近付けようとする。
身構える間も無く聴こえてきたのは………
紛れもなく、今、この扉から溢れ出すあのパッヘルベルだ………。
その音色に見る見る視界は開かれ、心を癒してはまた継ぎ足されてゆく心地よいリフレーンは“世界”を形作る無数の美しいもの達を讃え、祝福に満ち溢れている。
「あっ、知ってる!!
……これ何て曲?」
「それを訊こうと思って…、いろいろ編集してプレゼントしてくれたのはいいけどタイトルがなくてさぁ……
誰も知らないんだ」
「くれた人に訊いてみれば?」
「そうなんだけど、振られちゃって……」
私から受け取ったイヤホンをつまんで、ボソッと言う。
普通言うか?
「泣くのはいいけど……
ここではやめてよね」
声を潜めて、わざと神妙に言ってやる。
「いいよ、後で泣くから」
………てっ、天然か?
「な…付き合わないか?」
「え!………?」
「そうじゃなくて……」
准が、もう片方のイヤホンを外しながら………
子供みたいに、やっと笑ってくれた。
私達はその日の内にCDショップに出向き、この綺麗な曲のタイトルを知り、准はそれを私に買ってくれた。
それは准が私にくれた、初めてのプレゼントだった。