恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
2.曼珠沙華の想い出
<side.環>
花澄が建物の中へと戻った後。
庭に現れた清美に、環は恭しく一礼した。
「これは、清美様」
「今日は暑いね。……お前も仕事とはいえ、完璧にやる必要はないのだよ? こんなに暑くては倒れてしまう。ほどほどでいいのだよ、ほどほどで」
清美はいつもと変わらぬ落ち着いた視線で環を見る。
昔から変わらない、心の奥底まで見通すような鋭い視線。
藤堂の女主人だった貫禄からだろうか、その雰囲気は70歳を超えた今でも変わらない。
清美は軽く腕を組み、環を見た。
「そういえば、8月に月杜の別荘でやる避暑パーティだが、今回は西伊豆だ」
「左様でございますか」
「環、お前も執事として参加しなさい。月杜の奥様が、お前が来るのを毎年心待ちにしているからね?」
「勿体ないお言葉でございます」
環はにこりと笑い、清美を見た。
月杜の奥様、つまり雪也の祖母はどういうわけか環が淹れるコーヒーを気に入っており、パーティの場には、必ずバリスタとして出るようにと言われる。